※大学生
※完全パラレル

バイトを終えてアパートに帰ったのは夜の10時だった。ヒロトが紹介してくれたコンビニのバイトだが、これが条件がなかなかいい。給料はいいし他のバイトもいい奴だ。風介が同僚なのと店長が口うるさいこと以外は本当に恵まれていると思う。ただ今日は店長のぐちぐちに捕まったのを風介に笑われて少し腹が立った。
「あ、課題やってねえ」
エレベーターに足を踏み入れながら一人言を呟いた。一人暮らしをすると一人言が増えるというのは本当らしい。そんな下らないということを考えていたら、いつの間にか自分の階に着いていた。
「う、うぁ、うっ」
エレベーターから降りた途端に嗚咽が聞こえた。学生アパートの廊下は比較的静かな為、泣き声がよく聞こえる。しかも女ではなく少し声が高いだけの男の声だ。面倒臭いことにならないといい、そう頭の隅で考えつつ、声の主をちらりと見た。
「う、うぇ、うあっあ」
男は小柄なオレンジのバンダナをした男だった。ドアに座ってもたれてぐすぐすと涙を零している。表札には円堂、と書いてあった。確か大学で二、三度みたことがある。いつもあははと大きな声で笑っている奴だ。そんな男が泣いていて、尚且つ同じアパートに住んでいるとは、偶然とはすごい。
「ぉぐ、はっ、うう…あ」
彼は俺の視線に気付いたらしく、一瞬顔が強張り、それから困った様に眉を下げた。
「あ、ごめんな。邪魔だよな。」
彼は足を引っ込めると口元を緩ませた。その顔を見て、ふとおひさま園を思い出した。昔よく皆と喧嘩をした。その後、お互い泣いて謝った時の顔に少し似ている。そう思うと、何だか彼が気になった。
「どうかしたのか?」
そう問うと彼は目をぱちくりさせて、また目に涙を浮かべて微笑んだ。
「嫌なことがあったんだ。その上鍵も無くしちゃうし、最悪。」
彼はそう言って俯いた。声をかけた以上「へーそうか」と言って見捨てるのも気が引ける。はああ、と大きく溜め息をついた。息のついでに自分のこの、面倒なことをしょい込みがちな性格も吐き出してしまいたいくらいだ。
「じゃあ、俺の部屋来るか?」


「南雲ーっ、鍋しようぜー!!」
「うわ、また待ってたのか」
午後10時バイトが終わってアパートに帰ると、俺の部屋の前にスーパーの袋を持った円堂が立っていた。顔はへらへらと笑っている。
「いいだろ別に」
円堂は機嫌良さそうに立ち上がった。あの一件から円堂はやけに俺に懐いている。俺がバイトが終わる頃を見計らっては遊びに来たりしていた。
「キムチ鍋がいいな」
「げっ匂いつくじゃん」
がちゃりと鍵を開けると、円堂が一番に部屋に飛び込んだ。結局円堂があの日何で泣いていたのか知らない。けれど、もう鍵は見つかったし、笑っているし、もうそれでいいじゃないかと思った。



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