月がぼんやり浮かんでいる夜だった。水たまりには水晶の様にきらきら光を浴びて、透き通っていたが、奥の見えない不思議さがあった。
「今、何考えてる?」
吹雪が呟いた。俺は、特に何も、と思ったままを言った。吹雪はくすっと笑って水たまりを見つめた。俺も何となく水たまりに目をやり、そこに浮かぶ月を見た。綺麗な丸い月だった。
「水たまりの向こうにはもう一つ世界があるんだよ」
吹雪が言った。そういえば昔絵本でそんなのがあったような気がする。しかし中学生が話す内容にしたら随分幼稚なものだと思った。
「あの話は、本当なのかな。」
ばしゃん、と音を立てて吹雪が足を水たまりに突っ込んだ。じわりじわりと波紋が広がって、月もゆらゆら揺れた。
「残念」
吹雪が顔を上げる。明るい声に反して今にも泣きそうな表情だ。
「なかったね」
吹雪が欲しい世界はなかったらしい。だとしたら俺の欲しい世界もきっとないのだろう。


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