次郎は自分のことは何も話さなかった。だが両親は息子が呆れるほど能天気でおおらかで、次郎のことを何も問わず、「次郎ちゃん少食ねー」なんて笑うくらいのものだった。じいちゃんは次郎を見て一瞬驚いた様な顔をしたが、それだけで後は両親と同じだ。俺は本当は次郎にどんな事情があるのか気になっていたが、三人を見ていたら何も言えなくなる。次郎も最初は遠慮がちだったが少しずつ緊張が解けてきたらしく、今では家族の一員と呼べる位になっていた。ただ次郎は、昼間に外出することがなかった。家業の手伝いも室内でするものは率先してやるのだが、使いを頼まれると言葉が濁り、渋ってしまう。だが夜になれば何故か平然と承知した。皆不思議なことだと口にはしていたものの、やはりそこまで知りたいという風でもなかった。やはり変な家だと思う。

ある日町に使いに出た。町はいつもよりざわついていて、町人達がひそひそ噂をしているのが耳に入った。
「よお、円堂」
使いをすませた帰りに、風丸と会った。彼に町がざわついている理由を尋ねると、彼は顔を近づけて周りを気にする様にぼそりと言った。
「最近、佐久間様のところの次男が失踪したらしい」
風丸がそう言った瞬間、心臓がどきんと跳ねた。胸の辺りを押さえて彼の話を耳に入れた。
「町では駆け落ちとか色々言われてるぜ。佐久間様も探そうと躍起になって、目茶苦茶焦ってる。」
心臓がどくどく鳴る。泣きそうになったので目を閉じた。本当は、次郎の上等の着物にも、頑なに家のことを話そうとしない態度にも、物腰のよさにも、全部全部気付いていたのだ。風丸が口を開く。今すぐその口を閉じてしまいたかった。

「確か名前は…佐久間、次郎様」

体がぶるりと震える。怖い。次郎と会えなくなることが、恐ろしくなった。あの笑顔をもう横で見れなくなる。知らない振りも限界に近づいているのかもしれない。目を開けて、ぼやけた視界の中そう思った。

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続きます



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