ファーストキスはレモンの味なんて最初に言い出した奴は、本当はまだキスをしたことがなかったに違いない。テーブルの上にあったつやつやしたレモンを噛んでそう思った。そもそも何故噛もうかと思ったかなんて忘れてしまった。恐らく興味本位だ。ただ、中にぷりぷりと実がたっぷり入ってあるであろう黄色の粒粒したレモンを見たら、美味しそうだと喉が鳴ってしまったのだ。まあかじった結果、当然の如く舌に酸味と苦味が走り、美味しいと言えるものではなかったのだが。
「そんなこと考えてたのか」
俺がレモンを食す様子を見ていた円堂は、けらけらと喉を揺らしてそう笑った。そんなこと、というのはファーストキスのことで、古臭い自分の考えに何だか恥ずかしくなった。
「ファーストキスの味はレモンって聞こえはいいけど、レモンはあんな味だぜ。」
そう呟くと、円堂は口を大きく開けて笑った。円堂の笑顔は時々大人びている。彼の持つ笑いは本当におかしくて転げる様なものと、周りを見守る母や父の様なものがあった。しかしその二つのどちらでも無いような表情を円堂はしていた。不思議に思っていると、いつの間にか円堂がすぐ向かいに立っていた。顔をあげる。その瞬間にキスをされた。
「…レモン味っちゃレモン味だな」
円堂は顔を離してそう言った。ああ先程の顔は好きな奴を見る目だったに違いない、そう気付いた頃にはもう手遅れだった




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