昔、好きだったのかもしれないと思う奴は何人かいた。どいつもタイプは違う奴で、相手も好いてくれていることもあれば相手はこちらをどうとも思っていないこともあった。しかしそいつらの顔はちっとも思い出せなかった。けれども睫毛の長さだとか、笑った時に孤を描く唇だとか、切り揃えられた爪だとか、部分的なパーツはふっと覚えている。その理由は、分からなくもない。とりあえず俺は好きだとぼんやり感じていただけなのだろう。思い込みというやつだったのかもしれない。俺が欲しかったのは体温だったのだ。母の温かさが欲しかった。まあこんなことを言っても仕方ないから、この話はなしにする。俺がこれを恋と思っていないのは、その時は夜に眠れたからだ。夢には出てきたかもしれない。でもそれも覚えていないくらいのものだ。昔なにか暇つぶしに読んだ本にあった言葉を思い出す。「夢に見るよじゃ惚れよがうすい 真に惚れたら眠られぬ」という一節だったが、まさにそれだ。そこまで思って自分はいつからこんなにロマンチストになったのだと舌打ちをした。自分の目がキラキラ輝いているかと思うと寒気がする。しかし自分は正直なようで、ここのところ毎日眠れない日が続いていた。我ながら似合わない。こんなこと他のやつにしれたら腹が痛くなるほど笑われるに違いない。本当に自分はどうしてしまったのだと頭を抱えた。そんなことをしている今は午前3時。今日もろくに眠れないのだろうと思うと溜め息が出た。ふと、喉が渇いているのに気が付いた。少し粘っこくなった唾が喉に絡む。水でも飲もうと部屋を出て、食堂へと足を進める。皆寝ているのだろう、廊下は明かりこそ点いているもののしいんと静かで、薄暗く感じる。ぺたぺたとスリッパを引きずる自分の足音がよく聞こえた。トイレの前を横切ろうとした瞬間、トイレのドアがかちゃりと開いて、人が出てきた。なんとまあどういうことか、それは円堂という名の俺の不眠の元凶だったのだが。ああまた鳥肌がたった。
「よお不動、寝れないのか?」
円堂がにこりと笑う。ああ、と言うと円堂は「俺も」と言った。そういえば最近円堂の目元にはうっすらと隈がある。
「ここんとこ最近寝れなくてさ」
「はっ、好きな奴のことでも考えてるからじゃねーのか?」
口から言葉がすらりと出た。俺はいつもの皮肉を返して、きっと円堂は困った様に笑うのだろう。自分の進歩のなさに呆れる次第だ…と寒気がしてきた。
「…ああ」
円堂が小さく言った。円堂の顔は笑っていなくて、声にからかいがあるわけでもなく、嘘をついている風ではなかった。
「へえ意外だな、鈍感キャプテンの癖に」
そう言った言葉に別段嘘は入っていない。円堂は人の気持ちに鈍感だ。だからあんまり恋だとかそんなものに興味がある風には見えなかった。
「ううん、まあ、まだ好きになってからあんまり経ってないしな。」
円堂はちぐはぐな返答をしてちらりと舌を出した。失恋ともいえるはずなのに、別に悲しくなるわけではなかった。ただ喉に何かが詰まっているみたいに苦しくなる。
「じゃ、そいつに不眠の責任取ってもらえよ」
自分が一番したくて出来ないことを言うと、円堂は一瞬口をぽかんとさせて、それから眉をきゅっと上げた。怒っているのかと思ったが、頬が少し赤いのが見えて違うことに気が付いた。喉の苦しさが次第に消えていく。なぜだか今度は胸が苦しくなった。円堂が乾いた唇を開く。どきどきと心臓がうるさい。まさか、まさか。
「じゃあ責任取れよ、不動」

次の日、佐久間に隈が出来ていると言われた。でももうしばらくしたら消えるはずだ、というと佐久間は不思議そうに首を傾げた。昨日気が付いたことだが、俺が好きだと思い込んでいた奴の思い出す部分的なパーツは、円堂のパーツによく似ている。だからこれは恋なんてものではすまないかもしれないとこっそり思った。


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キョウ様
→こんばんはー!10000打お祝いの言葉もありがとうございますっ!お世話にwwうれしいです^//^頑張っていきたいとおもっています!(^ω^)リクエストの不円でしたが、なんかよく分からない話になってしまい\^o^/非常にすみません 不円もっと練習します…!両思いっぽい二人が少しでも感じれたらと思います…orz甘めになれたでしょうか…。不動さんあほですみません…。リクエスト、ありがとうございました!


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