昨日は抜けるような青空だったのに、今日は打って変わってどんよりとした黒い雲からはざあざあ雨が降っている。今日は自主トレーニングをするようにという監督の言葉に従い、皆はそれぞれトレーニングに励んでいた。しかし外でサッカーが出来ないというのはつまらないものだ。外を見て溜め息をついた俺に、鬼道が苦笑を漏らした。
「俺もお前と同じ気持ちだよ」
俺の思考は読み取りやすいらしく、鬼道はそう言って笑った。笑みを返した時に、鬼道の横にすっと影が見えた。自分の表情が固まるのが分かる。少しむすっとした顔の佐久間だった。
「鬼道、少し練習付き合ってくれ」
佐久間がそう言うと、鬼道は頷いてどこかへ行ってしまった。二回目の溜め息をつく。雨の日はただでさえ憂鬱なのに、こんなことがあると更に憂鬱になってしまう。佐久間のことをただのチームメイトと考えていたらこんな風にはならなかっただろうに。
「佐久間さんって、鬼道さんとよくいますね」
腹筋をしていた虎丸がぽつりと言った。隣で休憩している染岡が小さく頷いて、ちらりと豪炎寺を見た。
「お前と豪炎寺みたいなもんだろ」
なるほど、と虎丸が笑いながら言って、二人はまた練習し始めた。だが俺は何となくそう思えない。佐久間は鬼道が好きなのだ。多分それが分かるのは俺が佐久間を好きで、佐久間のことをよく見ているからだ。練習試合で初めて彼の走る姿を見てから、自分は彼をずっと見ている。あのグラウンドを狭く見せるような広々として大きく駆け回る姿が夢にも出てくるくらいで、最初は恋だと気がつかなかったくらいだ。今だって本当は恋だと認めたくはない。同性を好きになることを否定している訳ではなかった。ただ、自分とは遠いことだと傍観を決め込んでいた分、ショックが大きいのだ。母さんと父さんを見てきて、きっと自分も将来はこんな風に家庭を築くことになるだろうと思っていた。この時期同性に惹かれることは少なくないと何かの本で読んだことがある。それでも、この気持ちが将来は消えるなんて思えなかった。だから今まだ気持ちに整理がついていなくて、その上佐久間のああいう態度で更に気持ちがごちゃごちゃになる。それを忘れられるのがサッカーをしている時で、だから今日の様にサッカーが出来ないと不安定なのだ。
「はーあ…」
溜め息をついて、外を見る。その瞬間に気がついたことがあった。
「あ!」
思わず出た声に皆がこちらを向く。そういえば昨夜アンダーを干したままにして、取り込むのを忘れていた。マネージャーが既に寝ていたので自分で干していたのだ。慌てて部屋を出て外に向かう。近くにあったビニール傘をさして、泥でぬかるんだ地面を進んだ。もう泥水がはねるのも気にしない。干し場へ行くと、案の定アンダーはびしょびしょに濡れていた。
「うわ、困ったな…」
もう一度部屋で干そうととぼとぼ宿舎に歩を進める。と、宿舎の入口に誰かいるのが見えた。佐久間と鬼道が何か話している。反射的に隠れてしまってから、何故隠れたのだと後悔した。
「佐久間、あれじゃあ印象が悪い」
鬼道がそう言ったのが聞こえた。諭すような優しい声で、困った子供を見るような表情をしていた。
「…分かってるけど」
対する佐久間の返事は歯切れが悪く、顔は少し俯き気味だ。
「男の嫉妬は見苦しいぞ?」
鬼道にしては珍しいからかう様な口調だ。佐久間の顔がかあっと赤くなるのが分かった。もしかしてこれは所謂恋人達の逢い引きというものだろうか。なんというタイミングで出くわしてしまったのだろうと何度目か分からなくなった溜め息をつく。泣きそうに視界がゆらゆら揺れた。その時鬼道が、口を開いた。

「全く。円堂が好きなら、そういう態度をとればいいのに」

思いがけない鬼道の言葉に、一瞬反応が出来なかった。体がカチンコチンに固まり涙がすうっと引いていく。今、俺の名前出たよな。
「出来たら苦労しない」
佐久間が呟いた。それから鬼道を見て少し怒った様に口を一文字に結んだ。そろそろ帰ろう、という鬼道の声が聞こえて、二人は宿舎に入っていく。残されたのは今だ立ち尽くす俺だけだ。雨の音はざあざあ止まないし、びしょびしょのアンダーを持っていたせいでジャージまで濡れてるし、ジャージのズボンには泥が点々とついてる。それでも今の俺にはさっぱり気にならなくて、むしろ雨が好きになりそうな位で、いつの間にか憂鬱も消えてしまっていた。

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ツナマヨ様
→はじめまして!佐久間は鬼道のことが好きなんだと思い込んでいた円堂だけど実は両思いだった…とは大好きなシチュエーションですごく楽しく書かせてもらいました!しかし切なさも甘さも足りなくてすみませんorz精進します…!リクエストありがとうございました!


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