保健体育の授業を半分眠りながら受けていたら、教師に名前を呼ばれ「サッカーだけじゃなくて授業も頑張れ」と笑われ、一気に目が覚めた。皆くすくす笑っているのが恥ずかしくて、目を覚ますためにも保健の教科書に目を落とす。性感染症という項目の下には「お互いの愛のためコンドームをしましょう」なんて優しく優しくオブラートに包まれた言葉と、現物の写真が映っていた。ふと、思う。そういえば吹雪と最後にそういうことをしたのは一ヶ月も前だ。世界大会が終わって、帰国してからだ。こんな教科書の言葉なんか聞く気はないけれど、彼はちゃんとつけてくれていた。女は勿論男とだってしたことのない俺に対し、吹雪は何だか手慣れていた。その時を思い出して何だか少し悔しくなる。俺は声を我慢して吹雪の俺よりちょっと小さな体に抱き着くしか出来なかったのに、吹雪は笑って俺の体を撫でていた。そういえば、と頭の中を何か過ぎる。吹雪とはあれ以来連絡をしていなかった。ずっと連絡しようとは思っていたのだが、世界大会で優勝したことにより部員が増加し練習が忙しくなって、ずっと出来ず仕舞いだ。彼からも連絡はないから、きっと自分と同じように過ごしているのだろう。しかしぼんやりと浮かぶ考えは、消えない。自分と吹雪は互いに「好き」とは伝えたけれど、恋人というわけではない。もしかしたら彼の、にこにこと笑いすらすらと喋るあの口は、俺以外にも「好き」といけしゃあしゃあ言いきったのかもしれない。吹雪に恋人がいたかなんて俺は知らない。そういえば吹雪は人のことはよく聞く癖に自分のことは殆ど話さなかった。もやもやした感情は消えない。結局俺は男で、もし今吹雪に好きな女の子が出来たらあっという間に負けてしまう。理由は明確簡単「男」だからだ。コンドームだって彼との行為だって正しい使い方なんてしていない。不安はどんどん募って、結局俺ばかり彼が好きなのかと腹が立って、だから脳がちゃんと働いてくれなかったのだ。会いたい会いたい、そればっかり思ってどうしようもなかった。そして明日から三連休という日の夜、練習が終わってからすぐに俺は新幹線に飛び乗った。お年玉を全部叩いて、吹雪に何も言わずに北海道へ向かった。その日の夜景色はきっと綺麗だったろうに、俺は新幹線に乗っていた時間のことをあまり覚えていない。覚えているのは、吹雪と初めて出会った場所の景色を見てからだ。それから練習をしていた、白恋中のユニフォーム。冷たい空気のせいで練習をしている皆の息は白く空気中を漂っている。ボールを蹴っていた大柄な少年はこちらを向くと、あっ、と声を上げて、近くにいた奴の肩を慌てて叩いた。一ヶ月前と同じ、吹雪だった。
「よう」
吹雪はぽかんと口を開けて、しばらくして漸く「やあ」とだけ言った。心底驚いている風な吹雪の前に立つと、少し身長差が縮まった気がした。
「背伸びた?」
「え、ああ、まあね。」
吹雪はそう言って近くの少年に何か小声で呟くと、何か飲もうかと笑って俺の手を引いた。周りの温度に負けない冷たい手だと思った。吹雪はサッカー部部室の前の自販機を見て、何が飲みたい?とこちらを見ずに言った。何でもいいと呟いた後に、ピッピッと電子音が二回続いて、ココアが二つ落ちてきた。ココアを取った吹雪が部室に入り、手招きをしたので、俺も中に入った。中は意外と暖かった。
「どうしたの」
吹雪の言葉は気持ちそのままという感じだった。俺は少しだけ目を逸らして、また吹雪に目を合わせた。
「確認しにきただけ」
手渡されたココアを口に含むと、缶特有の微妙な苦みが口を伝わった。甘ったるさ、蒸れる様な熱ささえ今はどうでもいい。
「何を?」
吹雪もココアを口に入れた。
「お前は、俺以外に好きって言ったことあるか?」
そう言うと、そんなこと確認しにきたの、と吹雪は小さく笑った。よく考えれば確かに異常な行動だったと思う。それでも芽生えた不安はどうしようもなかったのだ。
「あるよ。」
当然、と付け加えた吹雪は、いつものように微笑んでいた。何も言うことの出来ない俺を尻目に吹雪は続けた。
「でもキャプテンと会ってからはもう言ってないよ」
その言葉に思わず顔を上げると、吹雪の顔は真剣で、いつの間にか笑みは消えていた。
「僕は、君が好きだもの」
吹雪が笑った。同時に胸のもやもやが全部消えて、あんまりに扱いやすい自分に赤面した。きっと吹雪はあと5年もしたらこんなことは言ってくれなくなる。それでも今は信じようと心の隅で頷いた。

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苑樹様
→こんばんわ!お祝いの言葉ありがとうございます〜!いつも来て下さって本当に感謝感激雨嵐です。アダルトっぽい吹円とのことでしたが女々しい円堂さんでほんますみません><文才の無さはっきりですね!もっと頑張ります…。リクエストありがとうございました!



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