最近、髪を伸ばしているなと思う。小さい頃からずっと「サッカーするのに邪魔だから」とショートを保っていた髪が、いつの間にか肩についていた。すれ違うと彼女からは花のような匂いがする。円堂は本当に女の子らしくなった。ユニフォームを押し上げる柔らかそうな胸も、にこりと笑うと少し色の薄くなる唇も、細身の自分よりも一回り細くて白い手首も、彼女を構成するもの全てが「女の子」だ。彼女の性格や行動は昔からよく知っていたから、そうと意識したことは今までほとんどなかった。そんな風だったから、伏せると綺麗に影を落とす長い睫毛にも気がつかなかった。円堂はいつもしゃんと背筋を伸ばして俺達の前に立っていて、だから俺はキャプテンとなったのも頷ける堂々とした姿にばかり目がいっていた。細い腕を腰に当てて「勝つぞ」ときっぱり言う彼女には周りにないものがあったのだ。皆は、負けに対しても恐れを見せない目に心底憧れている。ついていこうと思っている。
「俺、風丸が好きだ」
彼女は一昨日、そう俺の目を見ていった。試合の時と同じ様にきらきら光る目でそう言った。その時気がついたのだ、彼女は女の子だと。ぼんやりとしたフィルターが一気に鮮明になったような錯覚を覚えたくらいだ。彼女は丸い目を大きく開いて、頬を薄いピンクに染めていた。
円堂は、緊張しているのだ。
気付いた瞬間に思わず息を飲んだ。俺の知っている円堂は緊張なんかしていなくて、ハキハキと明るくて、恥じらう姿なんて見せなかった。こんな女の子の様には振る舞わなくて、だからすごい衝撃を受けた。目の前にいるのは紛れも無く円堂で、それでも先程までの俺の中の円堂とは確実に違う。そうだ、円堂はずっと女の子じゃないか。部員の足りない弱小サッカー部をずっと支えて、初めて公式の大会に出て、物凄く強い奴らと戦って、俺を支えて励ましてくれて、誰かに明るい声で肩を叩いて、皆のことを背負って、そんなときも円堂は女の子だったじゃないか。頼りない体でゴールの前に立っていた時も彼女は彼女だった。それに俺が気付いていなかっただけだ。不安だっただろうに、ずっと笑顔で過ごしていた。
「俺の、どこがいいんだ」
唇から紡がれた言葉は、情けない声だった。俺が今にも泣き出しそうな中、円堂はただ笑って俺の前に立っている。その顔もやはり女の子の柔らかさを持っていた。
「そういう所も含めて全部だよ」
自信はもう少し持ってもいいけどな、そう円堂がからから笑う。茶色い髪が揺れて、つやりと光を反射した。
「ちょっとだけ、返事を待ってくれ」
返事なんてもう決めていた。しかしその場で俺がそうとしか言えなかったのは、余りにも心臓がうるさすぎて格好が悪かったからだ。下らない理由だとも思ったけれどそれでも言えなかった。円堂が女の子だと改めて知ったからこそ、自分も男らしくしようと考えたから。円堂は「分かった」と言って、微笑みながら顔を伏せた。意識しすぎの鼓動がどんどん加速していく。その場から立ち去ると直ぐに、大きく溜め息をついた。その溜め息は昨日を飛び越えて今日まで続いている。勇気が湧かない、時間を置いてしまったのは失敗だと漸く気がついた。ぱか、と音を立てて携帯を開く。電話帳で円堂の文字を探し、目に入れてすぐ携帯を閉じた。情けなくて涙も出るというものだ。ちらりと目を横にやると、昔円堂と撮った写真が額縁に入れられ静かにたたずんでいた。小まめな母が記念にと保管したものだ。写真の中の円堂の髪は短く、しかし顔は今と余り変わらない。オトコ女とからかわれていた円堂は、もういなくなってしまった。
「円、堂」
もう苗字で呼ぶことが躊躇われるくらい、円堂は女の子だ。胸がぎゅうぎゆ痛くて、携帯を持つ手が震える。好きと伝えられるのはいつだろう。何がいいたいかって、要するに、今俺は惚気ているのだ。

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莉羽様
→こんばんわ!ギャグシリアス甘々にセンスが溢れて…!?そんな馬鹿な…でも凄く嬉しいです。でへへ。大好きだなんて私は幸せものですね!日参して下さるなんてひぎいいい><リクエストの風円♀凄く楽しく書かせてもらいました。しかし風丸さんのぐたぐた長い語りになってしまいすみません…!をお願いしたいです。少しでも思春期らしさが出ていれば幸いです…^▽^全裸待機だなんて覗きにいきますよ!もう!( 更新頑張りますー!!応援まで本当にありがたいです!リクエストありがとうございました!


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