世界大会の終わった翌日のことだった。その時俺はまだ実感のない「優勝」という言葉にふわりふわり浮かされていて、見た目からは分からなかったがきっと不動もそうだった。だから二人あんな風なことを言ったのだ。帰国の日が近くなり観光へと行くメンバー達を横目に、俺と不動は食堂で固いパンをかじっていた。マネージャー達もいないので気の利いた食べ方も出来ず、ただがりがりとパンを貪っていた。
「もう帰国だな」
「ああ」
不動がそう言って、俺もそれに同調した。気だるい雰囲気が食堂に蔓延していたが、それには緊張感も加わっている。
「…暫く、会えなくなるよな」
俺がそう呟くと、不動は少し黙って、それから俺をじっと見据えた。
「なあ、しねえ?」
いつもより甘やかすような、そんな声で不動が言った。なにを、ととぼけて聞いたら殴られそうなので止めた。今思えば不動はもしかして、不安だったのかもしれない。

不動の部屋に入ってから俺達は長い間何も話さず、ベットの上で向き合っていた。不動の顔はいつもより赤みを帯びていた。どちらが脱ごうとも言わず、相手が動くのを待っている。かちかち時計の音はうるさい、窓から漏れる光は眩しくて暖かい、そして背中を汗がゆっくりゆっくり伝っていくという状況の中、俺の頭は正常に働いてくれなかった。
「…自分で、脱ぐか?」
低い声で不動が言った。彼らしくもなく緊張しているようで、自分だけではないのだと何となく安心した。
「あ…ああ」
言葉が吃り、自分自身を殴りたくなるくらい恥ずかしくなった。シャツをのろのろと脱ぐ。その間不動はずっとこちらを見ていて、それがまた恥ずかしかった。自分がズボンを脱ぎ終わった頃、不動もいつの間にかシャツを脱ぎ終えていた。
「…じゃ、すっからな」
不動はそう言って俺をベッドの上に優しく倒した。壊れ物でも扱うかの様なその手つきに、普段の彼とは違う印象を覚えた。不動はたまに優しい。
「目、閉じろ」
不動が言ったので固く目を閉じると、唇に柔らかい感触がした。キスはもう何度もしていたので、特に何も感じない筈なのに、普段より温かい気がした。不動の手が俺の腰を撫でる。冷たいその手に、体がびくりと跳ねた。不動の舌が俺の唇を撫でる。かさついた自分の唇が湿っていくのが分かった。
「ズボン、脱がせるぞ」
不動はそう言って俺のベルトに手をかけた。目を開けて、小さく頷く。不動は切れ長の目を少し細めた。ベルトはするりと外れ、そしてベッドの下へ投げられた。不動の手が俺の胸をなぞり、突起を触った。
「怖いか?」
不動が呟く。首を振ると、不動は初めて見る顔で笑った。不動の体温を感じながら、その顔がすごく愛しいと感じた。あとのことはあまり覚えていない。気がつくと不動は横で俺の髪を優しくなぞっていて、俺は収まった熱さの名残を噛み締めていた。ただ、不動を抱きしめた感触はいつまでも腕に残っていた。

それから帰国までの数日間、俺達は何事もなく過ごした。そして帰国してから空港で、誰にも見えない様にこっそりキスをした。不動の髪の毛が頬にあたって少しくすぐったかった。
「またな」
不動がそう言った時の顔は、やはり愛しいと思えるものだった。

------------
有馬様
→はじめまして!この度はリクエストありがとうございます!そして一万打お祝いの言葉まで…!!マジで感謝!!不円とても楽しく書かせて頂きましたが、何とも裏と甘さ要素が少なくてすみません…。初エッチなのに!!あと円堂さんずっと「ああ」言っててすみません。自分の文才の無さに改めて呆れる日々です…。何かありましたらご連絡下さい!応援もしてくださってありがとうございました!



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -