過去拍手まとめ

▽吹円※パラレル
「君は何も唱えないのかい」
真っ白な髪をした綺麗な顔の少年はそう言うと、俺の目をじっと見た。もう日も暮れかけた神社に彼はさっと現れた。足音も何もしなかった。お使いに出されていた俺は、神社の小僧かと思って反射的に声をかけたがどうやら違うらしい。少年は古めかしいが、きらびやかな服を着ていた。
「何のことだ?」
「今世間では妖怪のことが流行っているだろう?皆念仏を唱えているじゃあないか」
ここ最近江戸では、綺麗な娘をさらっていく、という妖怪の噂が広まっていた。器量よしの娘を持つ親は皆恐れて念仏を唱えている。きっとそのことだろう。
「俺は男だから」
俺がそう言うと、少年は目を細めてにっこり笑った。
「馬鹿だねえ」
そう聞いた途端、目の前がぐらりと歪んだ。少年はケラケラ笑っている。
「女をさらったのはアツヤの方。僕、士郎は君目当てさ。双子の妖怪なんて思いつかなかった?」
そんなところで意識は途絶えてしまった。

▽ヒロ円※円堂さん暗い

「愛なんてさあ、結局いらないんだよ」
円堂君はそう呟くと、シェイクを一気に飲み干した。円堂君の喉をぬるぬると這っていくシェイクが羨ましくてたまらない。来世はシェイクになりたい。俺が円堂君に見とれていたため返事をしなかったからか、円堂君は少し不機嫌そうに鼻を鳴らした。眉を潜め口を一文字に閉じてこちらを見る円堂君と、キャプテンとしての円堂君は違う。円堂君は実際は暗い人間なのだ。妬みとか恨みとかそんなじめじめした感情を持つ、一人の少年だ。サッカーをしている時の明るさからは感じられないこの薄暗さ、素敵だよ円堂君。円堂君が赤い舌を覗かせる。
「愛なんかいらない」
可愛いなあ、でもその意見は反対だ。
「それだけは賛成出来ないよ」
俺がそう言うと彼は恨めしげにこちらを睨んだ。やめて、勃つ。
「円堂君を愛せなくなったら俺生きていけないもの」
ね、と言ってポテトを摘むと、彼は不満げに息を漏らした。
「じゃあいい」
あーあ、円堂君は今日も世界で一番可愛いなあ。もうだあい好き!

(好きだよ円堂君、たまに見せる君のそのデレ)

▽バン円
「俺、お前が好きだ」
円堂はそうきっぱり言い切ると真面目な顔をして、耳まで赤くなった。正直な話感想は『気持ち悪い』だ。決して同性愛者を馬鹿にする訳ではないが、自分のこととなると如何せん気が引ける。円堂はしょっちゅう同性(主にヒロトとか)からの告白をされているから平気だろうが、俺にゲイとかそういう気はない。女子大好き。しかし、これはチャンスかもしれなかった。もし俺が円堂と付き合えば、円堂は俺をイナズマジャパンに取り入れてくれるかもしれない。もしそうなったら俺にとってはいい機会だ。
「ああ、いいぜ」
そう返すと、円堂はにっこりと本当に嬉しそうに笑って、「やったあ」と抱き着いてきた。甘い香りが鼻をくすぐる。瞬間、吐くかと思った俺の口から出たのは「うわあっ」という何とも情けない、恥じらいの言葉だった。

え、俺ゲイ?

▽吹円
午後の屋上、キャプテンは泣きじゃくって、何度も謝罪の言葉を口にした。別に誰が悪いという訳ではない。僕も悪くないし、キャプテンだって悪くない。強いて言えば非生産的なことが罪という概念を持った人々が悪いのだろうと思う。
「男が好きなのはおかしいって、でも俺は吹雪が、好きなんだ」
時々つっかえながらキャプテンはそう言った。キャプテンの頭を撫で、小さく微笑む。
「キャプテン、靴脱いで」
僕がそう言うと、キャプテンは涙目できょとんとした顔をした。そして訳は分かっていない様だが靴をおとなしく脱いだ。
「そこの、屋上の端に並べて」
キャプテンは何も言わずにそれに従った。僕も靴を脱ぎ、キャプテンの靴の横に並べた。
「僕らは今ここで死んだ」
キャプテンの顔を見る。キャプテンの黒目は少し驚いた様な光を含んでいた。
「一緒に逃げないかい」
キャプテンは小さく頷いて、それからまた泣いてしまった。きっと怖いのだ。これもまた数年後には笑える話になればいいなと思った。

▽ヒロ円
「手紙を交換しよう」
ヒロトがそう言ったのは一ヶ月前だった。字の汚い俺はやんわり断ったつもりだったのだが、どうやら伝わらなかったらしく、手紙交換は始まった。毎日会うのにどうして、と問うとヒロトは「だって秘密を共有してるみたいで、面白いじゃないか」と笑った。確かにそうだなあと白い便箋を見ながら思う。几帳面だが思ったより男っぽいヒロトの字が、ふわふわした文をきりっと締めていた。ペンを取り、薄い黄色の紙に文字を書き始める。書くことはいつも適当だ。テレビの何が面白かった、さっきこんなことがあった、日常の些細なことを綴っていく。しかしそれは意外に面白いものだった。ヒロトのことを知ると、胸がぎゅっとする。ヒロトの嬉しかったこと書かれているとこっちまで笑顔になり、逆に悲しいことが書いてあると気持ちが落ち込んだ。ペンを勢いづけて走らせる。手紙を交換するたびに相手を一層好きになる、そうヒロトも考えていたらいいなと思った。

▽南円
サッカーの練習で疲れて家に帰り、ジャージを洗濯カゴに入れて風呂に入って飯を食べて、ベッドにねっころがった時にふと思う。南雲は元気かなと。彼に会ったのはエイリア戦韓国戦、本当に数える位しかなく、長く会話した覚えもない。それでも彼の赤い髪とつり目が思い出されるのだ。あんな短い時間だったのに、彼は自分の頭の中に鮮明にこびりついて剥がれない。彼は今頃何をしているのだろうか。湯の熱が冷めていく俺が一人寝ているのと逆に、誰かと嬉しげに話しているのかもしれない。目を閉じると直ぐに眠気がやって来た。濡れたままの髪の毛が頬に当たり冷たい。風邪を引くかなと思ったが、それもどうでも良くなった。恋というものは自分にはよく分からない。

▽不円
恐ろしい夢を見ることが多々ある。それは小さい頃から変わらず、また合宿所でも同じことだった。夢の内容はあまり覚えていないのだが起きた時にかいている汗がすごい。息も荒くなっていて、心臓がどくどくいっている。
「はあ、っ」
息をついて横になった。暗い天井がほんの少し怖く感じる。ちらりと横を見ると、クーラーが壊れたからと押しかけてきた円堂が寝ていた。暑苦しく感じていた体温が、今では何だか安心できる。
「…不動?」
円堂の目がうっすらと開いた。何でもない、そう小さく呟く。と、寝ぼけているのか円堂が俺の手を軽く握った。
「明日も早いし寝ようぜ」
円堂はふわあと欠伸をするとまたすぐに寝てしまった。手の平がじんじんと熱い。こいつって、誰にでもこうなんだろうかと思うと何となく腹が立った。赤い顔を見られないように円堂から顔を背け、ゆっくり目を閉じる。
その日、悪夢はもう見なかった。

▽フィ円
会う度にフィディオは俺の指を噛んだ。強く噛むわけではないが、少し噛まれた場所が赤くなる。その行為の意味が俺にはさっぱり分からなかった。噛む指も別段決まっているわけでもない。
「何で指を噛むんだ?」
そう聞いても、フィディオは笑うだけで何も言わなかった。少し腹が立ってきて、フィディオの指を噛んでやる。フィディオはちょっとだけ笑うと、また俺の指を噛んだ。
「何でだろうね」
フィディオが指から口を離す。唾液が糸を引いていて、濡れた爪がつやつや光る。
「わかんないな」
笑うフィディオは泣いているようにも見える。俺も泣きたくなってしまった。

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補足
爪を噛むのは心理的に何か不安を感じている時だと聞いたので。
・同性愛が不安なフィディオは指を噛んじゃう。
・しかも円堂に離れてほしくないので円堂の指を噛む
・円堂は意味が分からず噛み返してみる
・何だかうれしくなるフィディオ

補足があっても分からないっていう…すみません(´;ω;`))

▽バダ円
ひいじいちゃんは80年間眠ることにしたんだって、目の前の少年、円堂カノンはそう言って小さく笑った。
「どうして」
「君に会いたいからに決まってるじゃないか」
彼はそう言って、俺の頬を軽く叩いた。訓練によるものの方がよっぽど痛いはずなのに、彼に叩かれた方が悲しくなる。
「君のせいで過去も、消えちゃうよ」
彼は責める様な口調ではなかったが、瞳の奥に何かが見え隠れしていた。自分が謝ることではないのに、頭を下げてしまいそうだ。
「じいちゃん、目を覚まさないよ。皆心配してる。俺も…君もかな。」
そう円堂カノンが言った瞬間、周りの風景が全部消えた。残ったのはふわふわ浮いている俺と、体が消えかけの円堂カノン。当然だ、過去が無くなれば未来も消える。

「なんちゃってね」

そう彼が言った瞬間、風景が元に戻った。いつのまにか円堂カノンもいない。残ったのは、立ち尽くすしかない自分だけだった。

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白昼夢を見たバダップさん





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