本や映画は好きだが、恋愛物には興味がない。というよりかは意味が分からないのだ。別に恋をしたことがない訳ではないし、恋を知らない訳でもない。現に自分は、円堂に恋をしている。しかし映画や本には共感出来なかった。自分はキスやそれ以上を望んだことはないのだ。
「キス、しないか」
夕暮れの公園で円堂はそう言った。私は、黙って首を振ってしまった。円堂の落胆した表情がちらりと見える。
「すまない、その、まだ早いんじゃないかと思って」
咄嗟に口を出たのがその言葉だった。まるで出鱈目だったが、円堂は納得してくれたらしく小さい笑みを浮かべた。それから私達は少しの間会話し、それから別れて帰路についた。
やはり円堂もキスをしたいのだ。それを特別望まない自分は、きっと可笑しいのだろう。歩きながらそんなことが頭をぐるぐる巡った。円堂の横にいて、それが幸せで息が詰まってしまう位で。きっとそれは、自分が幸せに慣れていないからだ。
「すまない、円堂」
一人言を呟いた。しかし、いつか円堂とキスをする日が来るだろうとも思った。私は欲塗れだから、この幸せにも慣れて、更に幸せを求める様になるだろう。そうするだけで泣きそうになり、また喉がきゅっと詰まった。
きっと私は陽炎の様な恋をしている。