「子供が欲しいなあ」
ヒロトは温かい珈琲を啜ると、そう言ってにこにこ笑った。俺は冷えたココアを口に入れ、心の中で小さく息をついた。ヒロトはそういう気ではないのだろうが、何となく嫌になった。
「円堂君似の女の子がいい」
ヒロトは今にも歌いだしそうな位機嫌が良さそうだった。ヒロトは賢くて優しくて、でも、夢見がちだ。
「俺はいらないよ」
そう言うと、ヒロトは驚いた顔をして「どうして?」と言った。先程の表情が一変してとても悲しげになり、胸がぎゅっと痛くなった。
「勿論ヒロトが嫌いな訳じゃない」
そう言ってヒロトを見ると、少し落ち着いた顔をしていた。
「ごめんな。怖いんだ、セックスが」
涙が出そうになった。人に心配をかけたり同情させたりするのは嫌いなのに、それを自らさせようとする自分が情けなく思えた。
「子供でいられる時間が短くなっていくのが、怖い。」
馬鹿な話だ。子供でいられなくなったら、それはもう自分が子供ではなく、社会的には女という立場になって、もう今みたいにサッカーが出来なくなる気がした。仲間達と下らない話で笑う時間も、夜になり温かいベッドで眠る時間も、そんな時間が消える。そんなことはないと分かっているが、その考えは頭にこびりついて離れない。
「…そっかあ」
ヒロトがそう言った途端、自分の肩が震えた。そこで、自分の背中を汗がつたっていることにやっと気がついた。ヒロト嫌われることも怖い、セックスも怖い、きっと自分は世界一の弱虫だ。
「じゃあ俺もそれでいいや」
ヒロトが笑った。普段と変わらない優しい笑みだった。
「二人でずっと、今みたいに、子供のまま付き合っていきたいね」
ヒロトが俺の手を握る。喉がじんわり熱くなって、目尻に涙が溜まった。



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