※パラレル
※小さいヒートと円堂

今度こそ駄目でしょうな、そう言った医者の顔は固く引き締まっていた。それを聞いた親はわっと泣き出し、こっそりとそれを見ていた俺も泣いてしまった。昔から病弱で、入退院を繰り返して来た。そのせいで友達と遊んだことなんか数える位しかない。楽しいと思うことはそれ程無くて、「いつ帰れるの」と問いた後の母の顔を見るのがとても嫌だった。何のために生まれたのだろう、涙で濡れた目を拭いながらそう思った。病室に帰ってきた両親の目は酷く赤くなっていたが、二人はわざと明るい調子で「茂人、良くなってきてるらしいよ」と言った。それを聞いて、俺は「嘘つき!」と叫んでわあわあ泣いた。母は泣いて、父は唇を噛んでいた。出ていって、そう強く言うと二人は暫く躊躇った後に病室を出ていった。

その夜だった。窓辺に手紙が置いてあることに気が付いたのは。自分の病室は一階で、誰でも気軽に前を通れる様な場所だった。手紙は色紙に書かれていて、自分と同じ位の子が書いたような幼い字だった。「自分も入院している、普段は外に出てはいけないが昨日夜こっそり抜け出した所泣いている君を見かけて心配になり、手紙を送った」という内容で、見られていたのかと思うと少し恥ずかしくなった。入院生活は暇で暇で仕方ない。余命少ないといっても出来ることはやはり限られていて、だから手紙の返事を書く気になった。手紙には自分のことを洗いざらい書いた。あの夜のことも、病気のことも、全て綴った。それを窓辺に置いて眠ると、次の日には手紙が無くなっていて、またその次の日には返事が来ていた。手紙には、前回書いたことについての驚きが書いてあり、それから「会いに行っていい?」と書かれてあった。勿論と返事を書いた、その日の夜に窓がノックされた。慌てて開けると、オレンジのバンダナをした男の子が松葉杖をついて立っていた。
「やあ」
彼はにっこり笑うと、俺の書いた手紙を片手に持った。イメージと違って随分健康そうな子だった。
「初めましてだな、俺円堂守。」
「俺は、厚石茂人」
円堂といった少年は、よろしくな茂人、とまた笑った。松葉杖に目をやると、彼は照れ臭そうにした。
「俺、サッカーやってて怪我したんだ。治んないかも、って言われてたけど。」
どうやら彼はサッカーが好きらしい。自分も好きだというと、彼は顔を輝かせて、それからまた松葉杖に目を移した。
「あ、でもな、治るって思えば治るんだよ!」
俺も頑張ってリハビリしたんだ、そういうと円堂はこちらを見た。
「だから、茂人もきっとそうだ」
円堂はじっとこちらを見ていた。俺は何も言わずに、円堂を見つめ返した。
「治ったら、サッカーしよう!」
円堂はそう言って、松葉杖のままどこかへ行ってしまった。俺はというと、そのまま窓辺にぼんやりと立っていた。彼の背中は月明かりに光っていて、自分もああなりたい、と泣きそうになって、でも嬉しくなった。

母さんと父さんに「生きたい」と言ってからちょうど二年後、俺は彼とサッカーが出来る様になった。


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