※少し血注意


ぽたりと腕から血が落ちている俺を見て、悲鳴を上げたのは一緒に練習をしていたヒロトだった。彼は直ぐに自分のタオルを手にとり「大丈夫?」と繰り返し言いながら俺の傷を拭った。自分ではサッカーをしていてこういう怪我をするのは別段珍しくないと思っている。特にゴールキーパーとなったら尚更だ。なのにヒロトは普段から青白い肌を一層青くさせて、じっと傷口を見つめていた。なんてことのない、ただの擦り傷なのに。
「大丈夫」
ヒロトがそう言って俺を見た。それはもう俺に聞いているというより、自分に言い聞かせているようだった。
「治療しよう」
ヒロトが強い力で、俺の怪我をしていない方の手を引っ張った。周りは練習をしながらちらちらとこちらを気にして見ている。「別にいいよ」と言ったが、ヒロトは首を振った。仕方ないので鬼道に治療のことを軽く伝えて、ヒロトと簡易の保健室へ向かった。ヒロトはずっと俺の傷口を見ては泣きそうに顔を歪ませていた。
「ごめんね、円堂君」
保健室で秋が俺の治療をしてくれていた間、ヒロトはずっとそう言って俯いていた。秋は「すぐ治るよ」と言っていたし俺も平気だと笑ってみせたが、ヒロトはずっと俯いていた。
「俺が代わりになりたいよ」
夕食の支度をしなければならない秋が保健室を出ていった後、ヒロトはそう言って泣き出した。そこまで気にしていたのかと慌ててヒロトの背中をさすると、ヒロトは目を擦って呟いた。
「円堂君の腕になって、円堂君の代わりに痛みを味わってあげたい」
ヒロトはそう言って口を歪ませた。初めて見る表情だった。
「円堂君、手、貸して」
涙で濡れた目でヒロトは俺を見上げた。手を出すと、ヒロトは俺の手をぐっと掴んで、顔を寄せたかと思うと、傷口に歯を当てた。
「いっ…!」
思わず声が出た。ヒロトが少し血のついた歯を見せて小さく笑う。
「代わりになってあげたいよ」
意味が分からない、そう呟くと、ヒロトは濡れた頬をそのままににっこり微笑んだ。



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