※数年後

イタリアの道をぶらぶらと散歩している、といえば響きは良いが、ようするに今俺は迷子になっていた。イタリアと日本の練習試合の後、相手側の監督が「交流を深める為にも食事をしよう」と言い出し、そのレストランへ向かう途中で迷った。やはり日本のメンバーやイタリア代表メンバーになったフィディオとそのまま大人しく、観光してくるなんて言わずに一緒に行っておけばよかった、そう溜め息をつく。この広いイタリアで、数年前に会ったきりの彼に会いたいと思ったことが間違いだったのだ。町並みは綺麗で見ていて飽きないが、やはり海外というものは不安だという気持ちと、成人した男が迷子ってという気持ちが混ざって、もう一度溜め息をついた時だった。
「エンドー、マモル?」
不意に声をかけられた。振り向くと、数年前より身長が伸び大人っぽくなったジャンルカが立っていた。
「うわ、ジャンルカじゃないか!」
思わず大声が出て、周りがちらちらとこちらを見てきた。顔が熱くなると同時にジャンルカが笑った。
「相変わらずだな。まあ、テレビで見かける通りに元気そうじゃないか。」
ジャンルカはそう言って周りを見回した後、小さく首を傾げた。
「一人で観光か?」
「ああ、まあ、最初はそうだったんだけど、…迷ってさ」
唇をぽそぽそと動かす。ジャンルカが声を上げて笑った。
「ま、迷子…って…」
ジャンルカの肩がぶるぶる震えて、本当に苦しそうに笑っている。顔の熱がどんどん上昇していくのが分かった。
「わっ悪かったなっ!」
そう強く言ってそっぽを向いたが、ジャンルカはまだ笑っていた。
「ごめん、ごめん。案内するから。」
どこに行くんだ、とジャンルカが言う。監督が言っていたレストランの名前を言うと、ジャンルカは一瞬目をぱちぱちとさせた後「ふーん…」と言ってにんまり笑った。
「それならここから1分もかからないぞ。直ぐそこだ」
ジャンルカが指した方向には、綺麗な色の屋根の店があった。ジャンルカはまだにやにや笑いながら、「帰る前にはゴンドラ乗ってってくれよ」と俺の背中を叩いた。

「いらっしゃいまエエエエンドー!?」
ドアを開けた途端、厨房から顔を出した男がそう叫んだ。顔を見る、と、今度は俺が叫んだ。
「マルコ!?」
そこにいたのは間違いなくマルコだった。マルコは心底驚いた様で口をあんぐり開けている。
「え、なん、」
「いやチームで飯食おうって話になって…あれ?この店じゃなかった?」
「いやここだけど、上で馬鹿騒ぎしてるけど、うわ、え、」
マルコがもじもじと手をくねらせたので、俺まで恥ずかしくなってきた。と、フィディオが2階から顔を覗かせてにっこり笑った。
「ははは、マルコどっきり大成功!」
両片思いでもどかしい〜、なんてフィディオが歌って、周りのメンバーが笑って、いつの間にか来ていたジャンルカまで笑う中俺達は真っ赤になったまま何も出来ずにいた。




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