「誕生日おめでとう」カイルはそう言って笑った。「別におめでたでもなんでもないけどな」カートマンはそう馬鹿にした様に言って、カイルに殴られた。「▲○★▽◎◆□」ケニーは恐らく使用済のエロ本をプレゼントしてくれた。「おめでとうスタン」ウェンディーは可愛く微笑んでそう言った。皆俺を見ておめでとうと言ってくれた。なのに。
(なんであいつは…)
ちらりと視線をずらし、見慣れた青い帽子に目を向ける。彼は頬杖をついてつまらなさそうに黒板を見ていた。クレイグは、おめでとうなんて言いやしなかった。何だか腹が立ち、机に伏せる。ひんやりした感触に身を委ねていると、先生が俺の名前を大きな声で呼んだ。慌てて起きると、皆がくすくす笑っていた。先生は怒っているし恥ずかしいしで顔が赤くなってくる。そんな中でもクレイグはちらりとこちらを見ただけで、すぐ黒板に目を戻してしまった。

帰り道でも、頭はもやもやしていた。カイルとカートマンは道が違うしケニーは宿題を忘れて居残りなので、今日の帰り道は一人だ。自分でもクラスメート一人に祝われなかっただけでこんなにむしゃくしゃするなんて思わなかった。心の狭さを改めて感じ、小さく息を吐いた時だった。
「おい」
後ろから声をかけられた。ぱっと振り向くと、いきなり何かを投げられた。反射的にそれを受け取り、投げた相手を見る。帽子をいつもより深く被ったクレイグだった。
「じゃあな」
クレイグはさっと踵をかえして、走っていってしまった。暫くぽかんと口を開けていたが、荷物の存在を思い出し、腕の中の荷物に目をやる。綺麗な薄い包装紙からは、モルモットのぬいぐるみが透けて見えた。
「…っふ」
笑いが込み上げてくる。あのクールで、中指を立てるのが癖の様な奴がこれを、恐らくこれをわざわざ買ったのだ。こんな可愛くてファンシーなぬいぐるみを、あいつが、店で。
「ありがとう、クレイグ」
小さくつぶやいてみる。先ほどまでのもやもやは既にどこかに吹き飛んでしまった。むしろ今はスキップしたいくらい気分がいい。

俺って単純な奴だとつくづく思う。


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