気が付けば口内炎が出来ていた。特に生活に支障はないが、たまに舌があたりピリっとした痛みが走る。それがほんの少しうざったいそれだけだ。

「練習終わり、片付け!」
円堂の声が練習場に響いて、皆が大きな声で返事をした。俺はといえば「うーい」と小さく呟いただけだったので、鬼道ちゃんに目で注意されたが無視した。
「飛鷹、いいシュートだったぜ」
円堂が皆に声をかけてまわっている。ご苦労なことだと一人思っていたら、円堂がこちらに手を振った。
「いい蹴りだったぜ不動」
どーも、と言えば円堂は何が楽しいのかまたどこかへ笑いながら走っていった。その後ろ姿は昔見た母の背中とは似ても似つかない、淋しさの切れ端もなさそうな背中で、それが何だか憎らしくて舌打ちをした。佐久間が一瞬こちらを見た気がしたが、気にせず合宿所の方に歩を進めた。

夜になって食事をして風呂に入って、それで今日も一日が終わった。ベッドに横になり天井を見上げる。シミの少しある天井が酷く汚いものに思えて、目を逸らした。部屋は当然だが合宿所のものなので私物は殆どない。ここに今の自分と同じ様にねっころがっていた奴がいるのかと思うと少し笑えた。
「眠くなんねーな」
ぽつりと呟くが当たり前に返事はない。やはり自分と同じ様にこんな独り言を言った奴もいるのだろうか。何年かしてそんな事を思い出して「懐かしいなあ」とでも言うのだろうか。そして、円堂もサッカーをいつかは思い出にするんだろうか。その思い出に俺は含まれているのだろうか。
どちらも嫌だなと思った。思い出に残らないのも思い出にされるのも吐き気がする位腹が立つ。だが、そう思う自分に最も腹が立った。母と父の様に仲が睦まじかった二人があんな風になるのを見たのに、それでも愛だとかなんだとかを求めている自分が嫌になる。円堂が懐かしむ思い出なんかより円堂の横に立つ自分になりたい、そう考える女々しい自分を殺してやりたいとも思った。それも結局出来ない自分を分かっていて、不意に泣きたくなった。
がりり
口内炎を強く噛む。痛いだけだった。


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ゆん様
→この度はありがとうございました!不→円っぽくなってしまいすみません!リクエスト嬉しかったです!


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