客×宅配人




上る度にカンカンうるさいアパートの階段を駆け上がって、通いなれた部屋のチャイムを押す。中からどたどたと足音が聞こえたら深呼吸をして、ドアが開いた瞬間とびきりの笑顔をつくる。それからお決まりの一言。
「こんにちは、雷門ピザです!」
目の前の赤い髪の青年、南雲さんが「また円堂かよ」と小さく笑いながら五千円札を出した。最初は無愛想だった彼も、今ではこんな風に挨拶してくれる様になった。お釣りを渡し、会釈して部屋を去る。この短い時間しか彼と触れ合えないと思うと溜め息が出る。よろよろと歩いていると、換気のためか開いていた窓から声が聞こえた。盗み聞きはいけないと思いつつも、勝手に足が止まった。
「またピザー?嫌いじゃないけど、最近頼みすぎじゃない?」
「太るぞ」
「じゃーお前らが何か奢れよな」
知らない青年二人の声と、南雲さんの声。どうやら友人が来ているようだ。
「てか、晴矢そんなにピザ好きだったっけ?」
「そういえば前はピザなんて全然頼んでなかったな」
遠慮なしにずんずん聞いてくる二人を南雲さんは「あー」とか「おー」とか言いながら流していたが、それも限界に近付くと小さく溜め息をついた。
「頼まなきゃ会えねーからな。」


その後階段のてっぺんから転げ落ちたが俺は幸せです。



2011/02/11 01:13






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