南←円




時間は止まってしまった。壁に投げつけた時計がネジをこぼしながら転がっていく。それを見ながら、自嘲の笑いを噛み殺した。
「阿呆くさ」
家族でもなく友人というわけでもなく、ただ何となく一緒にいた奴、それが南雲だった。馬が合うのだが、やはり友人というわけではない。そんな彼が俺と一緒にいなくなっただけで、どうしてこんなにむしゃくしゃした気分になるのだろうか。
がしゃんがしゃんと部屋にある時計をどんどん投げつけて壊していく。ついでとばかりにカレンダーも破いてやった。少し息が荒い。
「あんな奴」
時間が戻ればいいのに。あの時彼の言った一言にもっと噛み付けばよかった。おめでとうなんて言わなければよかった。
「…あ」
そうか、はっと頭の中が明瞭になった。家族でもなく友人でもなく、彼には恋人になってほしかったのだ。なんて気付くのが遅すぎるけれども。

(俺を置いていくんだから、お前は幸せになれよ)



2011/02/11 17:20






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