庄乱



※数年後


「乱太郎が忍として生きると決めたなら」
庄左エ門は短く息を吸って、険しい目をしてこちらを見た。
「僕にはそれ相応の覚悟が必要だ」
囁くような声量なのに、彼の声が耳にこびりつくようだ。彼の下ろした黒髪が白い寝間着の上でつるりと揺れる。
「…そう」
自分でも驚く位に無関心な声が出た。ここを卒業すれば炭屋を継ぐ彼と、忍者になる私ではきっと、過ごし方も生き様も寿命も何もかもきっと異なることになるのだろう。
冷静な彼は、それを全て受け止めた上で意見している。私はそんなに冷静にはなれない。
「庄左エ門」
小さく名前を呼んでみた。返事はない。
きっと一度きりの恋だもの、少しくらいそういうことを無視したって、情に流されるたって、罰は当たらないだろう。
「庄左エ門ってば。」
彼は漸く唇を動かす気配を見せたが、結局言葉は生まれなかった。
「こういう時くらい、冷静にならないでよ。」
泣きそうになるから、そう言うと、彼はやっと、ぎこちなく笑った。



2011/12/05 22:31






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