黄黒(黒バス)




「君には、未来も、夢もあるんですから。」
喉から声を引きずりだし、一言一言を彼に投げつけた。彼が今まで自分に声で、仕種で伝えてきた好意を、全て押し潰す言葉だと分かって言った。
「…なんで」
そんなこと言うスか、彼はそう穏やかに問い掛けた。ずっと見ていたいとさえ思った彼の目も、今は合わすことさえ出来ない。真っ直ぐに彼を見据えた時を思い、今の自分の情けなさに眉を潜めた。
「そろそろ、さよならの支度をしなくちゃならないと、そう思って。」
言葉を丸めるように、早口で小さくそう言った。彼の滑らかな目元がきゅっと下がる。
「支度ってなんすか。なんで俺達がさよならなんて、するんすか。」
彼は本当に分かっていないようだった。その様子が何だか無邪気で、少し心が落ち着く。
「不思議なことではないでしょう。」
諭すように、優しく、彼がどうか傷つかないようにと呟く。
「僕は、君を好きになってから、ずっとさよならのことばかり考えてました。」
シュートを決める度に、雑誌に載る度に、女の子に声をかけられる度に、誰かの話題になる度に、喜ぶ度に、笑う度に、彼が自分から離れていくような気がした。自分と彼がこんな関係でいることに疑問を感じるようになった。
「ずっと?」
少し顔を上げると、痛みを堪えているような顔をした彼が目に入った。そんな顔をさせたかった訳ではないのに。黄色くなびく彼の髪を見て、こっそりと呟く。
「どうして僕は、好きだとか、愛してるとかだけで、君を幸せにできると思ったんでしょうか。」
幸せをもらったのは僕だけじゃないですか。
「違う、違うよ。黒子っちがいないと、俺」
彼が目の縁に涙をたっぷりと溜めて言った。次の言葉を言おうとする口を、手で塞ぐ。
「君は僕なんかよりすぐに素敵な人が見つかりますよ。」
俯き、白く貧弱な自分の足を見た。彼の横に並び、なんと不格好なことだろう。
「素敵な出会いをして、素敵な人に囲まれて、どうか素敵な人生を送ってください。」
彼の目から涙が落ちて、頬に生温く広がった。
「嫌だよ。」
くぐもった彼のその声は、今まで聞いた中で一番僕の心臓を圧迫した。


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一度決めたら何も聞かない頑固な黒子ちゃんとそれに戸惑う黄瀬涼太(モデル)


2012/08/03 20:21


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