金(→乱)+喜



※卒業後の帰り道
※捏造あり


坂を埋めつくすような桜の花びらをぎゅうと踏むと、薄い桃色はしわを寄せて丸くなった。金吾の黒い髪の毛についたそれは、風に吹かれてひらひらと揺らめいている。
「僕、乱太郎のこと、ずっと好きだったんだ。」
彼は眩しそうに目を細めた。温かな陽射しを体に受け、袴の下が少し汗ばむ。横に抱えたなめ壺が、手の汗で滑り落ちてしまいそうだ。
「一年生の頃からずっと好きだった。」
横を歩く彼は、一年の時に比べて背はぐんと高くなったし、顔も凛々しく引き締まっている。それでも変わらないのは泣き虫なところだなあ、と一人笑った。
「優しいところも、笑う声も、赤い髪の毛も、みんな好きだった。ずっと見てたかった。」
坂を越えると、川沿いの細い道に入る。この近道を見つけたのは3年生の頃だっただろうか。川は穏やかに呼吸をして、河川敷の菜の花を時々濡らしていた。
「気付いてたよ。割と、早くに。」
そう言って軽く肩を叩いてやると、金吾は目を少し見開き、弱く微笑んだ。
「乱太郎は家で、半農半忍だって笑ってた。」
時々春風が横を駆け抜けていく以外は、なんとも静かなものだ。彼の声は何時もよりも大きく聞こえた。
「僕は、家を継ぐから、きっともう」
一生会えない。その言葉は彼の口からは出てこなかった。口を閉じ目を伏せ、前を見るだけだ。
「僕が幸せな時も、悲しい時も、側にいて欲しいだけだよ。好き合うとか思いを告げるとか、そんなことは考えたこともない。」
長く伸びて、垂れ下がった脇道の草の上を歩く。軽く柔らかな感触が足の裏に伝わり、青い香りが舞い上がった。
「悪いな喜三太、こんな話ばかりして。」
「何言っているの。六年同室の腐れ縁に、遠慮するなんて、やめてよね。」
彼は口元を緩めて、少しだけ乱太郎に似た笑顔を浮かべた。それを見て、数日前まで共にいた仲間達の顔が頭の中に広がった。
「ねえ、つらいね。」
金吾が乱太郎ともう会えないであろうことも、自分がいつか金吾や、他の級友達と敵になるかもしれないことも、考えると胸が苦しくなる。
「それでも、出会わなけりゃよかったなんて、思えやしないんだものなあ。」
ぼそりと、自分に語りかけるように彼が言った。
「全くその通りだ。」
彼の方を向くと、目の縁に溜まった粒を拭い、こちらを見て優しく笑った。



(桜が咲いて、恋がこぼれた)


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卒業生の皆さんおめでとうございます!



2012/03/27 00:23






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