綾乱



※数年後
※少し捏造


彼とは、自分と同じ学年の中ではまあよく話す方だと思う。同じ委員会ではないが、彼が面白いように塹壕に落ちるものだから、そのつど拾ってやったのだ。その時二三言会話を交わし、彼は笑いながら去っていく。それがお決まりのことになっていた。

ある日いつも通り落とし穴から乱太郎を拾ったあと、彼が、先輩は卒業した後にどうするのですか、と二年前より少し低くなった声で尋ねた。伸びた髪の毛は、頭の上で申し訳程度に結われている。
「卒業後の進路は言えないけれど、ここから遠くに行くことは確かだよ。」
そのままを言うと、彼は少し目を見開いて、驚きの声を出した。
「滝夜叉丸先輩が、ここら辺でフリーの忍者をやるっておっしゃってたから、てっきり先輩もそうなのだと思っていました。」
「それは滝夜叉丸のことでしょう。いくら付き合いが長いからって、進路まで一緒なわけじゃないよ。」
それを聞いて、乱太郎は寂しそうに微笑んだ。
「それじゃあ、もう私達と会うこともないのかもしれませんね。」
「そうだね。」
「場所もわからないのなら、文だって送れやしない。」
そう呟くと、彼は頭を下げて、くるりと踵を返した。
「乱太郎」
その小さな後ろ姿に思わず囁きを振り掛けると、彼は少し赤い目を細くしてこちらを向いた。
「君も、来るかい。」
彼は一度ぱちりと瞬きをすると、眉を下げた。
「うれしいな。」
それが肯定の意味でないことを、染みるように感じた。彼はもう一度深く礼をすると、こちらを見た一瞬、にこりと笑った。一歩一歩音を立てて彼が遠ざかっていく。それを、冷たい温度で見ていた。




2012/03/23 20:58






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