立→悟(ヘルズキッチン)




きらきらした黄色のそれを、へらで潰すように混ぜる。回数を重ねるごとに粘つき、とろとろと抵抗なく練られるバターを、最近不快に思わなくなった。ふわりとバターの香りが鼻をくすぐり、そのまま食道を駆け抜けていく気さえする。白い砂糖をバターに混ぜれば、雪の降った地面のように粒が光った。それをまたヘラで混ぜ、今度は生命の輝きを依然保ったままの、目が覚めるように明るいオレンジのとき卵を加える。オレンジが黄色の液と混ざり、その中に消えてゆく。そして、それらを粉と混ぜ、さっくりと混ぜ合わせる。
ケースを開け、中から小瓶を取り出す。中身はローズマリーだ。蓋を開け、小さな瓶の中いっぱいに充満する香りを吸い込む。それを大匙1ほど生地に混ぜ、天板の上に一つずつ形を整えて置いた。その上に、飾り付け用のローズマリーをのせると、自分の外見とは正反対のような、可愛らしいものとなった。オーブンのボタンを押し、動き出したそれを確認すると、近くのいすに座る。
ため息をついた。なぜ自分は、こんなものを作っているのだろう。彼に負けて、もう一度挑戦したくて、それで、なぜ彼に向けてこんなものを。
部屋中に穏やかな、甘い香りが広がる。設楽さんが帰ってきたらなんと言うだろうか。珍しいな、誰にあげるんだ、なんて茶化してくるだろう。また「彼女」といえば、きっと笑うだろう。
オーブンが、ピーッと音を立てた。立ち上がり、オーブンをそっと開ける。柔らかな匂いが、小さな箱からぶわりと溢れ出た。
これを受け取ったら、彼はどんな顔をするだろうか。「うれしい」なんて言うのだろうか。
そうだったら、俺は、彼に一層こんなことをしてしまうに違いない。こんな風に、彼を思いながら、料理を。


(わたしを思って。)


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ローズマリーの花言葉に胸キュンです




2012/02/18 21:52






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