久々乱



※なんかあれな久々知さん



最近友人の様子がおかしい、すごく。長い睫毛が影を落とす大きな目は常にどこかを見ているし、薄く固そうな唇はにっこりと弧を描いたまま固定されている。一言で言えば相当不気味なのだ。しかし彼は成績優秀で教師からの信頼も厚く、また顔もいいので、何か企んでやがるなと気味悪がっているのはごく少数にすぎない。殆どが、最近久々知は機嫌がいいな、と思っているだけなのだ。

「勘ちゃあん」
夜間実習の小休止最中、彼はなんとも甘えた声を出した。普段は俺のことを勘右門と呼ぶくせに、そう思うと同時に嫌な予感がした。彼がこんな風になるときは、大抵すごく下らないことを考えているか、すごく恐ろしいことを考えている時なのだ。
「なに?」
一応そう返事をすると、彼は腰かけた木の上で足をぶらぶらさせた。そして、言いよどみながらもにやにやと笑顔。気味が悪いし、恐すぎる。
「あのさあ、最近俺源氏物語っての授業でやったじゃん。」
「ああ、やったね。」
忍者はお偉いさんのところで正体を隠してお仕えすることもあるから話題が合わせられるように、という学園長先生のお言葉に従い、座学では文学についても多く学ぶ。最近学んでいる源氏物語は平安の話で、モテ男の一夫多妻ストーリーという周りに女子のいない俺達にはへどが出るような話だ。(くノ一は、ありゃ女と呼ぶには強すぎる)
「紫の上」
ぽつり、と彼が言った。いつもより数段低い声だ。唇は相変わらずにやにやしたまま、目は遠くに見える学園を見据えていた。
「あの、小さい頃から光源氏好みに育てられた美人のこと?」
沈黙が怖くてそう問い掛けると、兵助はただでさえ大きな目を更に大きく見開いて、それ!、と大声で言った。近くで休んでいた八左エ門が驚いたようにこちらを見る。
「俺、それに習おうと思って。」
「どういうこと?」
「今から、ゆっくりゆっくり大切に、育てていこうと思ったんだ。」
兵助はもう既に俺と会話してはいなかった。
「兵助」
呼ぶものの、返事は返ってこない。彼は学園を相変わらずじっと見ていた。もう怖くて、何も言えなかった。


(最近乱太郎が兵助が好きな色の服を着ているのも、兵助の好きなものを食べているのも、兵助と動作とか喋り方が似てきたのも、全部気のせいだと思いたい。)


2012/02/03 09:52






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