きり乱 ※数年後 雨に濡れた彼の額が顔に触れる。その氷ような皮膚の冷たさの下には、確かな人間の温かさが感じられた。 「寒いんだよ」 言い訳をするかのような呟きは彼らしくなかった。彼は考えたらすぐ行動に移すから、口で細かいことや気持ちを伝えるのは得意ではないらしい。 「寒いね」 彼の指が私の袴の裾を引き上げ、露になった貧弱なももに触れた。その芯から凍えるような手の温度に、勝手に体が震える。彼の手がびくりと動いた。 「…嫌?」 彼の声は、普段とは打って変わって、小さく大人しい。そんな態度に出る彼が珍しくて、思わず首を振った。 「寒さ凌ぎってことで。」 彼は話しかけるような、独り言のような曖昧な口調で言った。自分への言い訳かもしれない。 「うん。」 しょうがないから、私はいつも彼をそう笑うのだ。本当は私のほうが、彼を好きなのに。 ----------------- 雨の日に廃寺でいちゃつくきり乱 2012/01/18 19:23 |