ヒロ→円



※10年後


馬鹿みたいだ、と一人でぽつりと呟いてみる。その声は白い壁に吸収されたかのように、響きもしなかった。ぺたりと床に座り、裸足の爪を眺める。冷たいタイルのせいで血の流れが悪く、とても白い。

何で、おめでとうなんて言ってしまったんだろう。あそこで泣いて喚けば、優しい彼のことだから、何かが少しでも変わったに違いない。ごめんなと謝って抱きしめられて、自分の気持ちにピリオドくらい打てただろうに。何故自分は、あんなに上手く笑えたのだろう。一度息を吸って、ぷはあと吐く。そして、にっこりと、彼が褒めてくれた笑顔を作った。
「やっぱり、みっともないからかなあ」

結局、好きな人の前では見栄をはりたい。それが自分の恋路の敗因なのだろうと、その時初めて分かった気がした。



2011/12/05 22:00


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