藤アシ



最近ちょっとした楽しみがある。それは、藤君が寝息を立てて眠り姫ならぬ眠り王子のように寝ている時だ。彼は、なんと寝言で返事をしてくれる。余りにもハッキリした返事だから起きているのかと思ったが、どんな話をしても答えてくれるし、起きた時に聞いても何も覚えていないようだから、僕は寝ている藤君と起きている藤君は別人のようなものだと考えている。

寝ている藤君の近くに行って、ベッドにそっと腰かける。少し軋んだスプリングがギイッと鳴った。
「藤君、お腹減ったね」
「ああ」
寝言の藤君との会話が始まる。なんというか、寝言の藤君は性格がちょっぴり素直だ。だから僕が普段藤君に言えないような恥ずかしいことも、寝言の藤君には話してしまえる。
「今日のサッカー楽しかったね」
「ああ」
「藤君すごい活躍してたし」
「そうか?」
「うん。…かっこよかったよ」
「サンキュ」
藤君の瞼はぴくりとも動かないけれど、唇はぱくぱく動く。見ていてなんだか面白い。
「…ねえ藤君」
「なに」
ふと、何だか言いたくなった言葉があった。寝言の藤君だから言えること。
「僕のこと好き?」
「好き」
アッサリ返ってきた言葉に、一瞬で口元が緩んだ。慌てて引き締めるがまた直ぐに戻る。頬が熱くなって、耳まで熱が伝わっていった。
「…ありがと」
「…」
「あのさ、藤君」
「…」
「僕も好きだよ。」

ガタガタガタンッ

僕が言った瞬間、驚いた顔の藤君が飛び起きた。目のぱっちり開いた、起きている藤君。聞かれたことの羞恥心が頭から足の爪先まで駆け抜けていき、思考回路が停止する。藤君は瞬きもせずに、なんだか顔を赤くしている。
「…アシタバ、もう一回!」
「聞かない知らない言わない!!」
そう言って保健室から逃げ出したけれど、依然顔は熱いままで、それがひどく憎たらしかった。



2011/03/06 23:42






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