藤→♀アシ→花



※藤→♀アシ→花→藤ループ

「好きだって、一言で変わる関係ならよかったのにね。」
僕と藤君以外誰もいない放課後の廊下。窓ガラスにもたれ掛かる彼は、睨むようにこちらを見ていた。
「アシタバ、それ何の話?」
「ただ思っただけ。」
眉を潜めて笑うと、藤君は一言ふうんと呟いて校庭を見た。視線の先には、彼女。ノートを眺めながらゆるゆる歩く彼女を見て、思わず笑みが零れた。
「アシタバって、最近女っぽくなったよな。」
「…喜んでいいの?」
「女子っぽく、じゃなくて女っぽくなった。」
彼はそう言って、僕をじっと見た。彼のこの茶色い睫毛に、高い鼻に、少しかさついた唇に、彼女は憧れているのだろう。僕とは真逆のそれに。鼻がつんとして、視界がじわじわと霞む。
「…好きな人がいるからかな。」
茶化すようにそうつぶやくと、藤君はまたふうんとやる気のない返事をした。
「性別なんて僕が言い訳にしてるだけだ。僕は藤君みたいになれないから、多分一生好きになんてなってもらえないよ。」
泣きたいのに、涙の代わりに言葉が落ちた。黙って聞いていた藤君が、ふと腰を曲げて目線を僕と同じ高さにした。
「…好きだ。」
ぽつりと耳に入った言葉が、脳を反響して消えていかない。突然のことに驚いていると、藤君が泣き笑いのような顔になった。
「でも、俺は花巻じゃないから多分一生お前に好きになってもらえない。」
ぱっと姿勢を正して、藤君が足元の鞄を手にとる。それを肩にかけながら彼は小さく息を吐いた。
「俺らって、好きだって一言で変わる関係かな。」
そう言う彼の顔が余りにも悲しそうなものだったから、僕の目から涙がぽろりと落ちた。僕らはみんな、きっと報われない。
「…変わらないんじゃないのかな。」
そう小さな小さな声で言うと、彼は笑って頷いて、それから「帰ろーぜ」と明るく言った。あの真摯な言葉をどう受け止めればいいのか分からない愚鈍な僕は、彼の後ろを泣きながら歩くしか出来なかった。



2011/03/25 00:16






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