わからない、わかってほしい


**一護と美香*


『うーん…』

『なに、また黒崎くんのことで悩んでるの?』

『うーん、まあね』


隣の、いつも妙に鋭い葉樹に苦笑いを返してから、交差点に目を向ける。

一護は、僕になにか隠してる。
―――いや、その内容はなんとなくわかってるんだけど、ね。


『さっき変な着物着て交差点を駆けていったのって、黒崎くん?』

『あのオレンジ頭は一護だろうね』


そう、最近一護は変なコスプレをして、転校生のルッキーと一緒に行動しているのを見かける。
別に一護がルッキーのことが好きならそれはそれで別に構わないけれど、幼馴染みの僕が知らないことを、ついこの間転校してきたルッキーが知ってるっていうのは、個人的にちょっとショックだよ…!



『黒崎くんに聞いてみたら?』

『聞くかどうかはともかく、今日一護の家に行ってみるよ!』

『ん、そうしなさい』





そんな会話をして葉樹と別れる。
僕は一旦家に帰って荷物を降ろしてから、黒崎家へと向かった(といってもほんとすぐ近くなんだけどね!)。



『こんばんはー!』

「おっ、美香ちゃんじゃないか!」

『一心さん、お久しぶりです…ってほどでもないか』

「ようこそ我が家へ…ってほどでもないな」


昔からお互いの家によく行き来している一護と僕だから、お互いの家族とは仲がいい。
現にかりんは「美香姉」、ゆずは「美香ちゃん」と呼んでくれるしね!



「一護なら自分の部屋に居ると思うぞ」

『じゃあ遠慮なくお邪魔しまーす!』

「あ、美香ちゃん!」

「美香姉来てたんだ」

『ゆず、かりん。ちょっとお邪魔するね』

「ついでだし夜御飯一緒に食べようよ!」

『え、でも悪いし…』

「遠慮すんなって美香姉。私たちが一緒に食べたいだけだから。だろ、ゆず」

「うんっ」


『…へへ、じゃあ遠慮なくご馳走になります!』

「あ、じゃあ用事が済んだら一兄と一緒に降りてきなよ」

「一護がなにかしそうになったら殴っていいからな!」

『ゆず、御飯楽しみにしてるよ!夏梨、了解っ!一心さんは父親なんだからもう少し一護を信用してあげてください〜』


黒崎家って、ほんとほのぼのするな。
そんなことを思いつつ、二階へと続く階段を上がり、一護の部屋をノックする。




『一護〜?僕だけど』

「美香か?どうしたんだよ急に」

『んー…なんとなく?取り敢えず入っていい?』

「ああ、構わねえけど」



部屋主の許可も下りたところで、一護の部屋に入る。
………あれ、押入れのほうからなんか人の気配しない?

―――――なあんて、ドラ●もんじゃああるまいし気のせいだよね!


一護がベットに腰掛け、僕はその前の座布団に座る。
これが僕と一護の定位置って感じ。



「で、今日は何の用だよ?」

『用がなきゃ来ちゃダメなの?一護ったら、幼馴染みに冷たいっ!』

「ばっ、誰もそんなこと言ってねえだろ!」

『きゃーこわーい!助けて一心さあ〜ん!』

「おまっ、親父だけは絶っっっ対呼ぶんじゃねえ!』


う〜ん、一護が不良だと思ってる生徒がこんな一護の姿を見たら拍子抜けするだろうな、そう思ったらなんだか笑いが込み上げてきた。



「ったく、早く用件を言えよ」

『やっぱ気付いてた?』

「何年一緒に居ると思ってるんだよ」


オマエのことなんざお見通しだっつーの、ただでさえわかりやすいんだからな美香は。なんてちょっと格好いい台詞もなんだかムカつくのは相手が一護だからかもしれない。
(相手が葉樹なら僕即効で告白する!←)



『一護さ、彼女出来たなら報告してよ!』

ぶふっ!?

『狽ソょ、汚い!お茶吐き出さないでよ!』

「わ、悪ィ……じゃなくて!いつ俺に女が出来たってんだよ!?」

『うっわ、この期に及んでなお誤魔化す?つーか超有名だから。オレンジ頭の不良学生黒崎一護が美少女転校生朽木ルキアを口説き落とした〜って』

「んだよその不愉快極まりない噂!誰が流してるんだ…あ、いや言わなくていい。広めてるのはどうせ水色か啓吾あたりだろ」

『も〜相変わらず照れ屋なんだから一護ったら!』

「だから違ぇよ!」


必死に弁解する一護はやっぱ面白い。
これだから一護をからかうのやめられないんだよね!



『あ〜でもそっか。誤解されると可哀想だから家に来るのは今日が最後のほうがいい?』

「………来いよ」

『ん?』


もうちょっとからかってやろうと思って呟いた言葉に、予想外の妙に真剣な声が返ってきた。


「美香が遠慮することねぇよ。もし仮に俺に彼女が出来たとしても、オマエが特別な存在なのには変わりねえし」

『!』


こ、コイツは照れ屋の癖に無自覚で恥ずかしい言葉を…っ!


「それに、そんなことにはならねえから安心しろよ」

『なんで断言?』

「なんでもだよ」


そういいながらふっ、と柔らかく、でも何処か好戦的に笑った一護はなんだかとっても格好良く見えた。




『じゃ、一護。隠し事はなしにしようよ。それともやっぱり僕には言えない?』

「だから俺には隠し事なんてねえって………」

『何年一緒にいると思ってるの?』

「!」

『一護が僕のことを理解しているように、僕も一護のこと理解してるってこと。覚えておいて?』



「美香ちゃーん、お兄ちゃん!御飯できたよ〜!」

『ん、今行く〜!』


『ってなわけで、先言ってるね一護!』

「お、おう…」




ね、なんとなく予想はついてるけどさ。
幼馴染みとして、貴方の良き理解者として。
真実は、一護の口から聞きたいっていうこの心情、鈍感なあなたでも理解してよね。















巻き込まないように、それが貴方の優しさ
バカだなあ、幼馴染みに少しぐらい肩の荷持たせてよね!










「…おそらくあやつは全て感づいておるぞ」

「だろうな」


ったく、よく考えたらわかることじゃねえか。アイツが俺の感情の変化に敏感なのは、今に始まったことじゃねえのに。


「それにしても大変だな、好きなヤツに私との恋愛を勘違いされて」

「ああまったくだよ…って誰が美香のことが好きっつったよ!」

「むっ、違うのか?」

「………違くねーけどよ」

「やはり好きなのだな」

「だあ、煩えよ!」



「して、やつに話すのか?」

「…さあ、どうだかな」



なあ、オマエには死神の姿をした俺が視えるのか?それとも勘か?

よくわからないが、とにかくオマエを虚に遭遇させたくねぇんだ。


「わかってくれ、美香……」



これは、オマエを護るための嘘。
そんな理由、きっと美香は納得しないだろう。だから………


「俺が美香を護れるような男になったら、全て話す」



それまで待っててくれ、頼む。













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