『美香のついでだからって…相変わらず、国光部長ってあたしの扱い雑だよなあ…』
美香が夏の暑さにバテて、偵察という名の気晴らしに出かけた日。
そういえば葉樹も実は無理してるんじゃないか、という気遣いで同じく偵察に行って来ていい、とはいわれたけど。
『だからって神奈川はねぇよ…』
そりゃ、今日の部活は午前からだったけどさ。
神奈川に行って、立海の偵察に〜ておかしくない!?休息になってねえよ!むしろ疲れるわ!
不動峰でいいじゃん、神奈川に比べたら随分近いし、杏ちゃんに会いたいし。
(あ、でも四天宝寺とか言われなくってほんとよかった)
『立海に到着…相変わらず大きいなあ』
「そうか?青学も中々の大きさだと思うが」
『確かに青学も私立だし大きいけどやっぱ他校のほうが気持ち的に大きく見えるっていう、か……?』
「ほう、なるほど。いいデータが採れた」
『・・・どうしよう、やっぱり疲れてるのかな。柳蓮二の素敵癒しボイスというなんとも素敵な空耳が聞こえてしまっている』
「嬉しいことを言ってくれるな葉樹。だが俺は本物の柳蓮二だ」
あれ、なんで蓮くんが此処に?
そんなあたしの疑問を表情から読み取ったのか、手塚から連絡を貰ってな、と教えてくれた蓮くん。
うん、流石参謀とも思ったし、国光部長も抜かりないなあとは思ったけどさ、最早これ偵察でもなんでもないよね。
「テニスコートまでは俺が案内する・・・といいたいところだが、ひとつ頼まれてくれないか?」
『ん、なに?』
「精市の手術は無事成功し、アイツも部活に顔をだすようになったが、まだ本調子ではない。今テニスコートから少し離れた木陰で休んでいるから、暫く話し相手になってやってくれないか?」
『うん、それは構わないけど・・・・・・』
なんで立海のテニス部じゃない、しかも他校のあたし?と疑問を込めて蓮くんを見れば、葉樹が立海のテニス部ではなくて、他校の生徒だからこそだ、と返された。
うーん、まあ蓮くんには考えがあるんだろう!
『えっと、確かこの辺…』
ではここに向かってくれ、俺は部活に戻るのでな、という言葉をのこしてテニスコートへと戻った蓮くん。
いわれた場所に向かってみれば、木陰の隙間から黄色のユニフォームが風に揺れているのが見えた。
『あ、発見。ゆっきー!』
「! ああ、葉樹じゃないか。どうして立海に居るんだい?」
『ゆっきーに逢いに来たの!』
「フフ、嬉しいことを言ってくれるね。じゃあ騙されておいてあげようかな。本当は偵察かなんかの気がするけどね」
『(おやまあ、バレてら)』
ゆっきーの手招きに誘われるまま、となりに腰掛ける。
「それにしてもよくここがわかったね」
『参謀が神の子へと導いてくれたんだよ』
「蓮二が?」
『うん』
ゆっきーの顔を見ると、なんだか吹っ切れたような、穏やかな顔をしていた。
そりゃ、まだ完全にはケジメはついていないだろうし、もどかしい思いも沢山しているだろうとは思うけれど、今この段階のゆっきーが少し気持ちに整理がついて割り切っているのなら、あたしが態々その話題を掘り返してまで下手な慰めや労いの言葉をかける必要はないだろう。
ゆっきーが本当に立ち止まりそうになってしまったときに、あたしに出来ることがあるのなら力になろう。そんなときは出来れば来て欲しくはないけれど。
だからこそ、その話は聞かなかった、気が付かなかったってことにして、ゆっきーとの会話を満喫しよう!
『それにしても此処涼しいね!』
勿論涼しいとはいえ夏だから暑いのだが、そとはギラギラと照りつける太陽で連日真夏日の猛暑。
それに比べたら風通りもいいし、中々快適な場所。
「うん、仁王が見付けた場所だからね」
『ハルくんとなんの関係が?』
確かにハルくんは暑いの苦手そうだけど。
「仁王は暑さが極端に苦手でね、それ故の特技というか・・・涼しい場所を見付けるのが上手いんだよ」
『・・・・・・ネコみたいだね』
「ふふっ、性格もね」
それでハルくんあんなに白いんだ。
でも、テニス部として活動している筈なのにあの白さは羨ましすぎる・・・・・・!
ていうか、その特技も結構重宝すんじゃね?
青学<うち>にも一匹欲しいなあ、仁王雅治。
それから暫くゆっきーと談笑して。
隣りに座って、心地いい風をあびていたら、なんだか眠くなってきてしまった。
『(う〜ん、あたしは美香より睡眠時間短くても平気なタイプだけど…流石にちょっとガタが来てるかもしれないな、)』
連日の部活、家事、それに加えてこの猛暑(勿論美香も同じ条件なんだけどね)。
そして情けないことに、美香に対してはどうしても親心のようなものが働いてしまうので、実のところあたしも最近しっかり寝れてなかったり。
わかりやすいようで、変なところで頑固で頑張りやな美香だから、心配なんだよね。
『(あ……限界、かも。お、ち……る…………)』
抵抗も虚しく、落ちてくる目蓋には逆らえず。
そのまま眠りの世界へと誘われてしまった。
(あなたの隣に居たら、なんだか安心して)
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