〜青春徒然番外篇〜 | ナノ




精一杯のありがとうを貴方に






※跡部視点
※ヒロインちゃんたちあまり出てこない



10月4日。
それはこの俺が、この世に生を受けた日である。
日付が変わると共に鳴り響く携帯電話。確認してみれば、学校の同級生だったり部活のメンバーだったり。
今夜は俺様の生誕を祝うパーティーも開催されるが、さすがにそういった式に参加するような奴らはこんな夜中に連絡を寄越してきたりはしない。明朝に届く祝電の数々に返事をするのが面倒だな、と思いつつ眠りについた夜。



「おはよう跡部、誕生日おめでとう!」

「跡部くんおめでとう!」


学校に行けば祝いの雨。
もちろん俺だって人間だ。大勢の人間に祝福されるのは嬉しいし、有難いとも思う。
けど、だ。

ちらり、携帯を確認する。


「(美香ならともかく、葉樹まで連絡なしとは…いい度胸してんじゃねぇか)」


たった一言。「おめでとう」と言って欲しい奴らからの連絡がないのだ。
そんな不満を心に抱えた朝と昼。



それを部活のときに忍足に不満をたれてみれば。


「え、いや跡部、それは無理なんとちゃう?」

「ああん?無理とはどういうことだ説明しろ」

「(あーんがああんになっただけで随分柄悪いな!!?)や、だって俺お嬢ちゃんらに自分の誕生日教えた記憶あらへんし」

「あー確かに教えたことないな」


横から話を聞いていたんだろう、宍戸も会話に混じり賛同する。


「乾や柳や観月なんかやったら何も言わんと知ってそうやけど、お嬢さんらはきちんと伝えへんとわからへんやろ」


忍足のもっともなコトバに、悔しいがそれもそうかと納得。
そもそも、あの2人から連絡がないことにどうしてこの俺様が凹まなければならない?
朝からたくさん祝いの言葉を貰い、プレゼントも受け取り。夜には俺様主催の生誕祭パーティーで、数多くの今の日本、強いては世界をも代表するようなヤツらが、俺様の為に集まるんだ。それだけで十分、最高じゃねーか。
そう自身を奮い立たせた、放課後。






「(ふ、流石に誕生日の主催は疲れたな)」


とあるホテルを貸し切って開いた生誕祭パーティは大成功で終わった。
事あるごとに声をかけられ、それに笑顔で応じ、「素晴らしかった」と帰っていく人々を最後のひとりまで笑顔で見送る。
毎年のことながら、主催であり主役である以上、一時も休める時がない。楽しいが、終わったあとの虚無感と疲労感は毎年ぬぐえないものだ。
車に乗り込み家まで帰れば、なにやら人影が。


「おい、俺様の家の前でなにをしている」


まったく、誕生日の最後に嫌な気分にさせんじゃねぇ。
不機嫌全開で声をかけた俺様の目線の先に迫る、白い物体。


「ぶっ」


『やったー不意打ちではあるけどインサイトを持つ跡部に顔面パイ投げ成功したぞー!』

『ちょ、美香、顔面はダメだって、ぶふっ、あれほど、くふ、言ったのにぷぷぷ』

『葉樹も笑ってるじゃん!』


どうやら俺様は世間一般でいう、「パイ投げ」とやらを喰らったらしい。


「てめぇら……いい度胸してんじゃねえか、ああん!!?」

『やだ景くん「あーん」が「ああん」になっただけで柄の悪さ4割増しだよ!!?』

『大丈夫、パイまみれの景ちゃんもイケメンだぞ(ぐっ)』

「だいたいこんな時間までなにしてやがる!」

『ごめんねお父さんけど伝えたいことがあって』

「誰がお父さんだ」

『ごめんなさいあなた今日だけはこの子の夜更かしを許してあげて』

「誰があなただ」


たく、最近は冷え込む夜も増えてきたってのに馬鹿なのかこいつらは。
・・・いや、そうだな馬鹿だった。

一気に疲労感が押し寄せる。


「で、言いたいことってなんだよ」


俺様がそういえば、2人で顔を見合わせて。














『『ハッピーバースデー景ちゃん/くん!!!!』』
満面の笑みで、今日一番聞きたかったコトバを贈られた















「…意外だな、知ってたのか」

『うん、景ちゃんを驚かせたかったからメールも電話もしなかったんだよー!』

「いや、確かにそれもちょっと気になったが、忍足のやつがてめえらに誕生日を教えたことないから知らなくて当然じゃないか、って言ってたからな」

『(おおう跡部の誕生日が10月4日とかテニプリクラスタには常識過ぎて聞くの忘れてた!そしてメールも電話も無かったのちょっと気にしてる景くんぎゃんかわ!写メりたい!)』

「・・・・・・・・・・・・・」

『ひょ、景くんいひゃい!なんれほっぺひっはるのはな!!?』

「葉樹てめえ今失礼なこと考えてただろ」

『おおう、ついに跡部のインサイトは心まで読めるように…!?』

「美香おまえも黙れ」


『あ、ちゃんとパイ以外にもプレゼントあるから!』

『パイはほんの挨拶だから!』

「当たり前だ俺様の誕生日祝いがこれだけで済んでたまるか愚民ども」

『『流石跡部様!あとそれ違うプリンスの台詞!しかも中の人的な意味で跡部じゃない!!』』


ぎゃーぎゃー騒がしい2人に、また疲れがどっと押し寄せる。
けどまあ、心の隅に空いていた穴は埋まったからよしとするか。


「美香、葉樹」

『『ん?』』

「I really appreciate everything you that did for me.」

『ね、ネイティブすぎてききとれなかった…』

『あたし英語、無理・・・』

「ふ、まだまだだな」

『それリョーマの台詞だぞ!』

『てゆーか英語も喋れて似合っちゃう景くんなんなの!むかつく!イケメン!』

「ま、俺様だからな」


2人を弄りながら、きっと寒かったのだろう、冷えている背中を押して中へ促す。
形は気に喰わないが、わざわざこんな夜に祝いにきてくれたんだ、あったかいココアくらいなら淹れてやろう。まったく、俺様も寛大だぜ。

自然と緩む頬をみて、2人が安堵したように顔を見合わせて、『『だーいせーいこーう』』と呟いていたのを、俺は知らない。











跡部くん誕生日おめでとう!
遅くなってごめんね!!







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