〜青春徒然番外篇〜 | ナノ




僕らのプリンセス






※×というより+って感じ。
※超絶短いです。
※安定のエセ関西弁。



「あの一瞬でどこいってしもたんや…」


とある休日。
休日であることにも関係なく練習のある部活動は多く、俺らテニス部も例に漏れず練習に励んでいた。

そんな最中、青学から連絡事項だと書類を持ってきた葉樹ちゃん。
練習も終了間際だったし、彼女も空気を読んで「練習が終わるまでそのへんのギャラリーに混じって練習みてるね!」なんて言っていた筈、なのに。


練習を終えて跡部に声をかけて迎えに行ってみれば、つい先ほどまでそこにいたはずの彼女の姿を見つけることが出来なかった。
疑問に思った俺と跡部は、他の部員に後片付けを任せ(葉樹ちゃんが来とるっちゅーことはもちろん内緒や。教えたらあいつら俺も探すー!なんて絶対言いだすに決まっとるし)、手分けして探すことにした。


もちろん、他の部員にも協力してもらって探したほうがすぐに見つかることは百も承知。
ただ、あまりレギュラーが抜け出して騒ぎを他の人に悟られるのもいかがなものかと思っての判断だ。


(だからって跡部が抜けたら目立つと思うんやけどな…まあこれは黙っとこ)


そんなことを思いながら、屋上へと向かう。
上からなら全体を見渡せると思ったからだ。


屋上の扉を開き、あたりを見渡す。

―――――――ビンゴ。

テニス部の部室棟の裏あたりで、氷帝の女子生徒数人に囲まれている葉樹ちゃんを発見した。
その旨を跡部にメールで連絡。
すぐに「俺様もむかう」と返信が来た。

にしても部室棟の裏とか、灯台下暗しとはまさにこのことを言うんやなぁ。


考え事をしつつも足はとめず。
だってどう見ても穏やかな雰囲気ではなかったし、心当たりがないと言えば嘘になる。

自惚れたいわけではないが、男の俺からみたって氷帝テニス部に所属しているのはイケメン揃い、それに名の知れた名家の出身のヤツも多い。

葉樹ちゃんの無事を祈りながら、来た道を急いで引き返す。
途中で跡部とも合流し、ひとまず彼女らの声が届くところまで来た。



「あんた、一体テニス部のなんなのよ」


会話を盗み聴いてみれば、まあある程度予想した通りの。
そんな状況に葉樹ちゃんは震えて泣いていないだろうか、心配になって飛び出しそうになるのを跡部に抑えられる。
曰く、「今乱入したところで誤魔化されて終わりだ」とのこと。

なんでこんなに冷静でいられるんかわからんけど、跡部の言う通りなのでとりあえず自分を落ち着かせる。


『いったい何なのって…えと、青春学園テニス部のマネージャー、ですけど』


きょとん、と。
そんな擬音が似合うくらいぽかんとした顔でそう答える葉樹ちゃん。


「私たちが聴きたいのはそんなことじゃないのよ!なんで氷帝学園の生徒でもないアンタがテニス部レギュラーと仲良くやってんのか、ってことをきいてるの!」

『それを聞きたいなら最初からそういって下さいよー!回りくどいなあ!』


あはは、なんて笑って見せる葉樹ちゃんに脱力する。
お嬢ちゃん、危機感なさすぎやで。


「っ、喧嘩売ってるの!?」

『え、いや売ってないですよ!てか、確かに「氷帝学園の生徒か否か」って点に於いてはあたしは部外者ですよ?でも、「テニス部関係者か否か」って点に於いては貴方たちより接点があって当たり前じゃないですか、ご存知無いでしょうけどあたしもテニス部関係者なんですよ』

「テニス部関係者ってのを利用して彼らのことを狙おうったってムダよ!自分の顔鏡でみてみなさいよ!」

『へぇ。確かにあたしは自分の事可愛いだなんて思ったことは無いですけど。でも、貴方たちの大好きなテニス部さんは、人を見た目で判断する人たちなんですか?』

「そんなこと言ってないわ!けど、あんたじゃ釣り合わないって言ってんの!!!」

『うーん、釣り合うも何も彼らと付き合いたいだなんて一言も言ってないんだけどなぁ』


困ったように眉を顰める葉樹ちゃん。

「あんたみたいなのが隣に居るだけで彼らの価値が下がるのよ!」

『価値、ねぇ・・・・・・。じゃああなたたちは、中身が最悪なイケメンと、中身が素敵なブサイク。どっちと付き合いたいです?』

「そりゃーイケメンよ!」

「私は中身重視、かな」


『なるほど。ちなみにあたしは中身の素敵なイケメンを所望する(どんっ』


「ぶっ」


アカン、笑ってしもた。
中身も外見もいいって高望みし過ぎや葉樹ちゃん。


『まあ要するに?貴方たちが尊敬する氷帝学園のテニス部っていうのは、こんなブサイクで魅力の無いあたしでも快く付き合ってくれる中身も伴ったイケメンなのよ。確かに貴方たちのことは可愛いって思う。女の子として好きだよ。でも、そんな彼らの中身をまだしっかりと見抜けてないヤツにとやかく説教はされたくない、かな』

今の貴方達の方が、よっぽど色眼鏡で判断していて彼らには釣り合わないんじゃない?

まっすぐに。
そう臆することなく彼女たちに告げる葉樹ちゃんは、本当いつ見ても男顔負けのカッコよさや。

ふっ、と跡部がひとつ笑みを零し、物陰から姿を現す。



「そういうことだ、それに俺様は影でこそこそ隠れてこんな陰湿なことをするヤツよりも、コイツのほうがよっぽど可愛いと思うけどな」


ぐいっ、と葉樹ちゃんの肩を抱き寄せて顔を寄せる跡部。


「俺もその意見には賛成やな」


腰を引き寄せて、つむじに口付けをひとつ。
勿論挑発の意味も込めて、リップ音は大きめのサービス付きや。


『景くんも忍足くんも早く助け船だしてくれれば良かったのに』

「気付いとったん?」

『忍足くんの笑い声でかいよ』


目の前の女共からしてみたら赤面発狂ものの状況だろうに、気にすることなく普通に会話、それどころか「どうしたの2人とも、近すぎて暑い、邪魔」なんて言ってのける彼女は本当に面白いと思う。


「おまえらみてぇな雌猫よりも、こいつのがよっぽど俺様のプリンセスに相応しいぜ」


俺に対抗するかのように、にやりと怪しい笑みを浮かべながらその場に跪き、恭しく葉樹ちゃんの手の甲にキスをひとつ落とす跡部。


『け、景くん、膝!!!!景ちゃんが跪くなんてダメだよ!!!なんでかっこいい騎士様みたいになってるの!?ここは普通逆の立場では?!あたしに跪かせて下さい』

「ふはっ、俺様にここまでさせておいて感想がそれか!やっぱ最高じゃねーの葉樹」

『あれ褒められてる?貶されてる?』


めちゃくちゃ褒められとるで。


「っ、今回はこれくらいで許してあげるけど、次はないと思いなさいよ!アンタも、山本美香も!」


捨て台詞を吐く氷帝学園の生徒たち。

―――あーあ。やってしもたな。





『美香に手ぇ出したら…あたし、容赦しないですからね』




にっこり。
とても愛らしい笑顔で、でも目には殺気を込めて。
そんな彼女を目にしてしまった女たちは、「ひっ、」と息をのみ、脱兎の如くその場を去っていった。



『あちゃー、やっぱお嬢様相手にやりすぎちゃったかなー』


そういって目尻を下げる葉樹ちゃんは、いつもの可愛らしい女の子で。
いろいろな顔を持っていて、俺らに全てをさらけ出しているようで、実はなにも見せていない。
そんな彼女に自分と似たようなところを感じることもあるし、彼女の鋭さに一線引きたくなるときもある。

けど。


「ほんまに、俺らのプリンセスには叶わんわ。そう思うやろ跡部」

「まったくだ」

『よくわからんがイケメン2人にプリンセスと呼ばれるのは悪い気がしないぞ!』


そういってにっこり笑う葉樹ちゃんに、ふつふつと湧きあがるナニか。



―――あんだけ心配かけといて、こいつは何もしらんと。



数少ないテニス部が振り回される側の存在に、俺と跡部のちょっとした加虐心のスイッチが入る。
そうや、俺は少しでも、この子の取り繕った仮面が崩れるところが見たいんや。



「「では、僕らの我儘プリンセスの仰せのままに」」


俺が背後から抱きしめて、後ろから顎くいなるものをして鼻をかぷり、と甘噛みする。
そのまま跡部にバトンタッチし、今度は跡部が正面から頭を引き寄せおでこにキス。

もちろん一連の動作で、彼女の眼をしっかり見ることは忘れずに。


「葉樹、顔、真っ赤やで」


くすり、最後に耳元でそう囁けば、ピクリと跳ねる肩。
相変わらず耳弱いんやな、ほんまソソる反応や。


『―――――――――っ、帰る!!!!!』


ばしっ、と跡部に今日氷帝にきた理由であろう資料を投げつけ、校門へとずんずん進んでいく葉樹ちゃん。


「ふっ、俺様に直接言いたいことがあったから態々待ってたんじゃねーのかよ、敏腕マネージャーさん」


『別に跡部くんなら資料見ればわかるでしょ!それに、』


跡部くん、なんて言い方にちょっとした抵抗がでてて本当に可愛い。
自分では平気で距離を詰めるし、着替え中だって気にしないし、甘い台詞にだって鈍感なのに、こう直接的な行為には慣れていないらしく、簡単に動揺する。
そんな彼女の珍しい姿が見たくて他のテニス部の連中もいたずらしているんだろうけど、これを彼女に教えてしまったら自分もその顔を拝むことが出来なくなるので絶対に教えてはやらない。


「それに?」


俺が続きを促せば。




『っ、久しぶりに、お話出来ないかなぁって思って待ってただけで、資料について特に話すことはないです・・・・っ!なので帰りますっ!!!!』


顔を耳まで真っ赤にして小声でそう告げて、今度は早歩きで校門のほうへと歩んで行ってしまった彼女に。


「ぷ、なんやあれ、ほんま可愛すぎやろ…!」


「わざわざ遠方から来てくれたんだ、早々に部活を切り上げて我儘なプリンセスのお願いをきいてやらねーとな」


「その意見に賛成やわ」


跡部と顔を見合わせ、部活を終わらせるために部室に向かう。

自分でもわけわからんくらい盲目的に、俺らは葉樹と、それから美香に興味津々みたいや。



「これからも色々な反応、期待しとるで」















僕らのプリンセス
俺を、飽きさせんといてや













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