〜青春徒然番外篇〜 | ナノ




しゃーないから付き合ったりますわ。






※財前視点・なんか若干甘い。


夏休みに入ったばかりの、とある7月のこと。
金太郎がやけに浮ついとるなぁ思って(そわそわしてるのはまあいつものことなんやけど、)声をかけてみたら、どうやら美香さんと葉樹さんと会う約束をしていたらしく。
いくらマネージャー業をやっているとはいえ、化け物並の体力とテンションの金太郎にこの暑い中1日中付き合わされるんは流石に大変やろ、と思って着いていくことを決めた、のに。



「…なんで早々に2人いなくなってんねや」

『あ、あはは…』


一瞬苦笑いを浮かべたあと、スマホを取り出してなにやら入力する葉樹さん。


『ん、美香にメールもLINEも送ったから、どっちかは見るでしょ』

「俺も一応金ちゃんに連絡しときますわ(多分見ぃへんけど)」

『ありがと!』


とまあ、そんなやりとりをしたあと。


「んじゃ、ここでボーっとしててもしゃーないし、俺らもどっか行きます?」

『そだね、暑いしね』

「なんか食べたいもんとかあります?」

『うーん、昼からお好み焼きとかはちょっと重いかな…でも大阪名物は食べたい』

「ほんならかすうどんもきつねうどんも食べれるお店行きましょか」

『かすうどん?なにそれ初めてきいた!行くっ!』


そんなこんなで近くのお店に入って、談笑しながらうどんを食べる。
そのとき葉樹さんの携帯が震えて、確認してみれば案の定金太郎たちからの連絡やった。


『四天宝寺中の前集合でどうかな?だってさ』

「おん、りょーかいって言うといてください」

『はーい』


そんなやりとりもしつつ、うどん屋にそんなに長居するわけにもいかないのでおばちゃんにお勘定してもらって店を出る。
葉樹さんが奢るー言うてうるさかったけど、年上とはいえ女に奢られるんはかっこ悪いし、お互いに譲歩して割り勘ってことで収まった。



『おうどん美味しかったー!』

「ならよかったっすわ」

『東京と違っておだしが透き通っててびっくりした!』

「ああ、俺らも東京でうどん頼んだときはだしが濃くて驚いたわ」

『いやーやっぱ関東と関西で違うんだね!』

「みたいっすね。・・・あ、葉樹さん、中学行くんやったらそっちの路地裏からのが早う行けます」

『おお、抜け道ってやつね!面白そう!行こう!』


こういう会話をしていると、美香さんといるときは比較的ストッパー役に思える葉樹さんも実は結構好奇心旺盛なことを改めて実感する。
ま、そーゆーとこも嫌いやないけど。


なんて思いつつ路地裏の道を進む。




「あ、葉樹さんそこ段差、ってあぶな・・・っ!!」

『う、わ!?』


道端のちょっとした段差に足を取られ、前のめりに倒れそうになる葉樹さん。
咄嗟に彼女の手を引いて半ば強引に引き上げれば、勢いがよすぎたのか反動で脇の壁に押し付けてしまった。

あれだ。客観的意見としては壁ドンってやつ。




『おおおお、ごめんね!でも助かったよ光くん!』



ありがとう、そう上目遣いでにへらと笑い、「にしても細く見えるのにやっぱ筋肉ついてるんだね」と俺の胸板をぺたぺた触る葉樹さん。
その至近距離から見る彼女の横顔に、首筋を流れる汗に、漂う甘い香りに、どうしようもなくクラクラする。




ああ、きっと夏の暑さの所為だ。




最後に訳のわからない言い訳をして、俺のなにかがぷつんと切れたような気がした。






「……葉樹さんって、ほんと無防備やな」

『は?』

「俺だって、男なんすよ?」


そう呟いて、路地裏で葉樹さんの顔の横に左手、頭の後ろに右手を添える。
ああ、背が低い彼女がきょとんとした顔で、必然的に上目遣いで俺を見上げる姿がほんまに愛おしゅうて可愛くて。
もう、我慢できひん。
なんやねん。俺だって男やぞ。なんでそんな意識されてへんの。俺が年下やから?まだガキやから?滅多に逢われへんから?

俺は、葉樹さんの表情ひとつひとつに、こんなにも胸が張り裂けそうになっとるんに。
ふざけんな、俺はクールで通っとるんすよ。なのに、なんでこのひとはこんなに俺をアツくさせるん。

耳元に一度鼻を寄せて、一息。酸素と共に鼻から匂いを吸い込む。・・・やっぱり甘い。なんていうか、挑発的な匂いや。
俺の吐息が耳元にかかったのか、一瞬びくりと震えたその身体だって見逃したりはしない。・・・・へぇ、葉樹サン、耳敏感なんや。いい情報げっと。
というかほんま、いちいち反応可愛すぎやろこのひと。



葉樹さんの全部が欲しい。




己の劣情に突き動かされるように、再びぐいっ、と顔を近づける。



『あ、光くん、睫毛が目の下についてるよ』

「・・・はい?」



え、なにいうとるんこのひと。


『よ・・・っと!はい、とれたよ!』


そういってにこっと笑う彼女の手には、確かに俺の顔についていたらしい睫毛らしきものが握られている。


「…ああもう、」


ほんっっっっまこのひとは天然で鈍感を地で行くひとやな!まあお蔭で冷静になれたから結果おーらいやけども!
なにが「光くん近くで見ると更にかっこいいね」やねん、ほんまに襲うぞダァホ!!(まあさっきまでガチでキスする気満々やったんやけど)




「はぁああああああ・・・拍子抜けしたわ」

『え、、なにが?』


きょとんと首を傾げる葉樹さん。
ほんっま、なんでこのひとは自分のことになるとこんな鈍感になるん?


「・・・なんでもない。それよりはよ行くで」


むんず。


『えっ!?』


壁ドンの姿勢からなおって、代わりに葉樹さんの手を握り締める。
それから半ば強引に手を引いて歩き出す。

どうか、彼女に冷静になった途端こっぱずかしくなって赤く染まったこの顔が見られませんように。


そんな願いを込めながら、四天に着くまで一度も葉樹さんの方を見ることなく歩き続けた。







振り回されるのはいつも俺
ふざけんなや、いつか絶対目に物みせたる。







『光くん!』

「なんすか」

『へへ、今日は来てくれてありがとう!嬉しかった!光くん好きだよっ』

「あーもーだからなんでさらりとそういうこと言うん!?こんの天然タラシ!」

『Σええええひどくないっ!?』



くるり。
立ち止まって葉樹さんと目を合わせる。
後ろにはもう目の前にある俺らの中学校。


『どうし、』


ぐい。


葉樹さんの頬を両手でつかんで、ぐい、と顔を引き寄せる。



「俺もあんたのこと嫌いやないで・・・・・・葉樹」


今日の仕返しとばかりに、耳元で甘く、アマく囁いてやった。
年下やからって油断せんといてや、葉樹センパイ?

けど今は、その真っ赤に染まった顔で勘弁したる。



『ひ、光くんのが天然タラシだあああああああ!!!!!』

「学校着いたで〜」

『スルー!!??』



俺らが金太郎と美香さんと合流するまで、あと3分。


















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