〜青春徒然番外篇〜 | ナノ




たこやき食べるで!





『着いたー!大阪ー!』

『狽ソょ、駅のホームで叫ばないでよ!しかも此処四天王寺駅!新幹線で新大阪まで来たときすでにもう大阪!しかも電車乗り換えもしたよ!?』

『新大阪駅で葉樹が駅員さんと間違えて警備員さんに話しかけたときはウケたな〜!』

『う、うるさい!』

「あー!美香と葉樹やー!」

『だから叫ぶなって……狽、おっ!?』


夏休み。葉樹と二泊三日くらいで大阪旅行に行こう〜という話になったものの、元の世界は愚か、こちらの世界の大阪の地理も全くわからない。
そんな僕たちが思いついたのは、“ある人物”に大阪観光の案内を頼む、っていうものだったんだけど…


『金ちゃん、久しぶり!でもいきなりタックルはビックリするよ〜』

『そうだよと遠山くん。ウチ内臓出るかと思ったよ』


いや、表現グロいよ葉樹。


「せやかてわい、早よねーちゃんたちに逢いたかったんや!」


きらきらした笑顔でこういわれたら、もうね。


『『あーもーかーわーいーっ!!』』


きゅんとするしかないよね!
ってことで、二人してぎゅーっ、と金ちゃんに抱きついていたら、不意に葉樹が「いてっ」と呟いた。



「三人して、駅の改札でなにしとるんスか」

『およ、ひかも来てくれたのかい?』

「金太郎一人やと先輩らの体力的にキツいやろ思て。ほんでしゃーないから俺がストッパーとして付いてきたんスわ」

「光かてまんざらでもなさそうやったでー!」

「うっさいわアホ」


確かこの二人って出身小学校一緒だったっけ。
この関係、なんか可愛いなあ!



『ん、事情はわかったけどそれとウチの頭を叩くのとなんの関係が?』

「別に。叩いて欲しそうやったんで叩いただけっスわ。美香さん叩いてこれ以上アホになられても俺は責任取れへんし」

『アホになったら責任とって僕を嫁にしてくれ!』

「だが断る」


さ、流石ひかというか。
さり気に僕ら二人ともバカにしたよね。
そして相変わらず毒舌!此処に謙也くん辺りがいたら思いっきり鋭い突っ込みが入るんだろうな〜。


「それより美香お好み焼き食べたいんやろ?わいがとっておきの店案内したるでー!」

『ほんと!?嬉しい!』


そういって金ちゃんに手を引かれるまま歩き出した僕が、後ろから葉樹とひかが着いてきていなかったことに気が付いたのは随分後のことになる。
(取り敢えず今は早朝からの電車旅でお腹が空いたのだ!)





「旨い店ゆーてもぎょーさんありすぎて何処に連れてったらええんかわからんわ〜。美香はなんやリクエストとかないんか〜!?」

『うーん…。あ、じゃあ金ちゃんが四天宝寺の皆と学校帰りに行くお店とか行きたい!』

「よっしゃ決まりやな!ほんなら次の信号左やで!」

『了解であります隊長!』


ノリで敬礼したら、なんだか物凄くキラキラした目で見つめてくる金ちゃん。
その顔可愛……げふんげふん。



「わいが隊長かー!?」

『せやで!』

「めっちゃかっこええな!」


なんてご満悦気味に素晴らしい笑みをひとつ漏らして、ほんなら美香が逸れないように、とぎゅっ、と手を握って前進する金ちゃん。

…う〜ん、お姉さん君の将来が心配だよ。
今からこんなに可愛くて、だけど格好いい金ちゃん、絶対モテるよね。ほんと恐ろしい子!←




「着いた!此処がわいらが学校帰りによく寄る店やで!」

『…もうすでにいい匂いがします隊長』


僕はたこ焼きとか詳しくないし、大阪のお好み焼きっていったら聞くだけでどれも美味しそうに感じるんだけど…やっぱり関西人にとっては違うんだよね、だって僕にもお気に入りのラーメン屋さんとかあるし。


「わいもお腹空いたわ〜!」

『そろそろお昼どきだしね、ひかと葉樹も入ろう―――って狽ヲ―――ッ!?

「いきなり大声あげてどないしたんや〜美香?」

『ひかと葉樹が居ない!』

「狽ネんやてー!?光と葉樹が迷子になってしもたんか!?」

『そうなのかも…!』


ああでも、あの二人はしっかりしてるからな、そんなことを思いつつ携帯を確認すれば葉樹からメールが来ていたことに気が付く。



 To 葉樹
 sub ばーか

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 どうせ遠山くんと一緒にたこ焼き
 屋さんにでも向かったんでしょ?
 遠山くんも一緒に居るなら、一緒
 に食べてきていーよ。
 地元民なら道も詳しいはずだしね
 〜!

 ただ騒いでほかのひとに迷惑かけ
 ないように!
 食べ終わったら連絡して。
 どこかで集合しよ〜

 ちなみにウチは光くんが近くにい
 るから、集合場所は遠山くんと光
 くんに決めてもらったほうがいい
 かも。


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うん、所々「オマエは僕のオカンかっ!」って突っ込みたいけれど今は我慢しよう。



『金ちゃん、葉樹とひかが一緒にいるから、それぞれでお昼食べてそのあとどっかに集合しよ、だって!』

「わかったで!」

『それで、僕も葉樹も大阪の地理がわかんないから、集合場所は金ちゃんとひかで決めてもらってもいい?』

「ほんならもう四天宝寺中で集合にしよや!こっから近いし!」

『ん、じゃあそうやってメールしとくね』

「よろしゅう!」


葉樹に“とりあえず集合場所は四天宝寺中で”、とメールを送って、店の中へと入る。


「らっしゃい!二名様で?」

「おん」

「こちらの席へどうぞー」


店員さんに案内されて、席へと座る。


「お客さん、初めてですか?このお店のシステム聞きはります?」

「初めてちゃうし知っとるから説明ええでー!」

「ほんなら注文決まったら呼んでください」


そう伝えて店員さんが去っていく。


『鉄板があるってことは自分で焼くのかな?』

「せやで!まあ頼めばお店のにーちゃんがやってくれるんやろーけど…」


どないする?と金ちゃんに尋ねられて、「自分でやってみたいかな!」って答えたら、笑顔で「りょーかい!」って返ってきた。
ああもう、ほんと可愛いよこの子!



「にーちゃん、ほんならコレとコレとコレで!あ、あとでごはんも持ってきてやー」


金ちゃんが大声で店員を呼んで注文する。
数分後には具財が来て、店員さんに「焼き方の説明とかいります?」と聞かれて、「しっとるからええで!」と答えていた。


「ほんならとりあえずわいが一枚焼くでー!」


そういって具財をかき混ぜ、鉄板にのせ、丁度いい焼き加減で上手にひっくり返した金ちゃんは、それはもう一般人からみたら職人なんじゃないかと思うような手際でした。
でも金ちゃん曰く、大阪ではどちらかというと店員が焼いてくれるシステムのお店のほうが多くて、別に関西に住んでるからって皆が皆お好み焼きを上手に焼けるわけじゃないんだ、って教えてくれた。

金ちゃんは学校の近くのこのお店がたまたま自分で焼くこともできるお店で、何回か通ってたらそれなりに出来るようになったらしい。
だから東京にいるときに、もし大阪の友達とこういうセルフのお好み焼き屋に行ったとしても過剰な期待はしたらアカンでー!って笑顔で言われた。


うん、しつこいと思うけどあえてもう一度言おう、マジこの子可愛い。



「お、出来たでー!半分こしよや!」

『わーい!あ、マヨネーズとかかけちゃってもいい?』

「おん、ええで!」


トッピングをして、お好み焼きを口に含む。


『おいしーっ!!!』

「せやろ!?」

『うんっ!』


やっぱ焼きたてって美味しいね!
あ、でもさ。


『きっと金ちゃんが作ってくれたからこんなに美味しいんだね!』

「!!!」


僕の言葉に、目を見開く金ちゃん。


『?どした?』

「今の美香ねーちゃん、めっちゃかわええ…」

『えぇっ!?』


い、いきなりなにを言い出すんだこの子は!?


「今の美香ねーちゃんの笑顔、めっちゃかわいかったで!なんかこう、このへんかきゅうううってなった!」


そういって自分の胸のあたりを抑える金ちゃん。
なんでやろな〜?なんて笑顔で疑問符を浮かべる金ちゃんを見て、きっと今の僕の顔は真っ赤だろう。だって、いくらなんでもこれは恥ずかしすぎる・・・!!


「美香、顔真っ赤やで!?熱あるん!?大丈夫か!?」

『て、鉄板の熱さとお好み焼きの熱さでちょっと顔がほてっちゃっただけだから平気だよ!』


だから不意打ちの呼び捨てと安心したようなほっこり笑顔をやめてください!眼福だけど僕のライフはがりがり削られています隊長!!



「ほな、冷めないうちに食べよーや!」


そういって新たにお好み焼きを焼きだす金ちゃん。
なんか、うん。今の君は年下だってことを忘れそうになるくらい可愛くてかっこいいよ。
でも繰り返すけど、僕君の将来が心配。リョーマとはまた別の無自覚小悪魔になりそうで(あいつは自覚のある生意気だ)。



それから談笑をしながらお好み焼きを食べて、お会計をしてお店を出る。
目指すは四天宝寺中だ。


「ん」

『え?』

「手、繋がへんの?さっきもつないで歩いてたやろ?」


そういって左手を差し出す金ちゃん。
さり気無く車道側に立っているのは金ちゃんのことだから偶然かもしれないけど、太陽を背負って振り返る金ちゃんの満面の笑顔が眩しい。
再び顔が火照るように感じたのも、この鋭い夏の日差しの所為だ。そう自分自身に言い訳をして、汗ばんだ手をぬぐってから、意外としっかりとしているその左手に己の手を重ねた。




「………こうやって、すぐ会えたらええのに」

『ん?』

「大阪と東京って、遠いんやな」

『・・・そうだね』

「美香ねーちゃんも大阪で暮らしたらええのに!」


なーんてな!なんて笑う金ちゃんは、自惚れだと思われてもいい。少なくとも心のどこかでそれを望んでくれているのだろう。
なら、僕の答えは。


『うーんさすがに大阪には住めないなー』

「えー!?美香姉ちゃんのケチー!」

『でも、近いうちに会うことは出来るよ!』


そんな僕のひとことに、金ちゃんは目を輝かせる。


「ほんまに!?」

『うん。だって、8月になったら全国大会の為に東京に来るんでしょ?』


にっこり。
テニスのことになれば、金ちゃんの瞳に宿るのはやる気と負けん気。


「おう、四天宝寺が優勝や!」

『青学をナメてもらっちゃ困るなー!』


わいのわいの。騒ぎながら四天宝寺を目指す。
小さな言い争いはしてるけど、お互いに笑顔だし、なによりその手は繋がれたまま。



夏の日差しが金ちゃんの笑顔を照らす。
激動の夏は、まだ始まったばかり。















とある夏の出来事
年下の少年の、揺ぎ無い決意をみた










「あ、ほんなら美香ねーちゃん!わいが勝ったらわいと東京でえとしてやー!」

『Σぶふっ!?』

「美香ねーちゃん汚い」

『心の底からさげずんだ目でみないで!?』

「わい、美香ねーちゃんのこともテニスも好きやから頑張るでー!!」

『っ、その気がないとわかってても照れる!』

「照れてる美香ねーちゃんもかわええなあ(にひっ」



『僕、やっぱり君の将来が心配だよ』

「テニスでは負けへんで?」

『そういう意味じゃないよ!』



まさか金ちゃんに翻弄されるとは思っていなかった…!
















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