久遠×綱海


「しつれーしまーす」

監督の部屋。
コンコン、と二回ノックをするもそれは形式ばかりのもので、綱海は返事を待たずにずかずかと入っていった。さもそれが自然な流れかのように。

初めのうちは久遠も注意していたが、当の本人が「なんか堅っ苦しすぎるんだよー」とかなんとか言って一向に直す気配がなかったために、もはや諦めて放置していたのだった。
彼の出身地である沖縄ではどこの家もお隣さん同然で、ドアの鍵なんてあってないようなものだったという。そんな自由な土地で過ごしていた綱海らしいといえばそうなのだが、さすがに高校生になるまでにはなんとかしろ、と釘を刺すのは忘れなかった。

何もこんな面白味のないところにいるよりも他のメンバーと一緒に過ごせばいいものを、と思わなったこともない。だが久遠にとって不思議なことに、綱海といるこの空間が案外居心地の良いものだったので(特に仕事の邪魔にもならなかった)、敢えて追い出すような真似もしなかった。

さらに監督と日本代表メンバーという肩書きはあれど、何より二人は、世間一般でいう恋人同士なのだ。

それからというもの、綱海はことある毎に久遠の部屋に入り浸るようになったのだった。


そして現在、勝手知ったる監督の部屋で、綱海はきょとんと首を傾げていた。

「あれ、いねぇの?」

主の見当たらない部屋をきょろきょろと探しものをする猫のようにうろつき回り、簡易書斎の扉を開けて見えた背中に、遂に目を輝かせた。

「みっけた、かんと…」

飛びつこうとして、はたと気付いた。久遠の肩が、静かに上下しているのを。よくよく耳を済ますと、僅かながら寝息も聞こえてきた。

(そっか、最近色々あって、監督も疲れてんだなぁ)

初めて見る久遠の寝顔を、まじまじと見つめる。

お付き合いをしているのだから、当然一緒に寝たこともある。けれどいつも自分より後に寝て、そのくせ自分より先に起きているのだ、この人は。
いつか「俺も監督の寝顔見たい!俺ばっか見られてなんか悔しい!」と眠い目をこすりこすり起きていたこともあったが、船を漕ぎ出した辺りで久遠の大きな手にあやされるように撫でられてしまうと、途端に夢の世界へと旅立ってしまうのだった。
てのひらから伝わってくる優しい思いがじんわりと体中に広がって、ほわほわと宙に浮かんでいるような、なんとも夢見心地な気分になるのだ。
まぁ、要するに「監督の寝顔を見よう作戦!」は目下全敗中である。

(なんかいつもと違って新鮮な感じ…あ、眉間のシワもねぇ)

しかし今回はどうだろう。
思いがけず見ることの出来た好きな人の寝顔。
このまま起きるまで眺めていて久遠の反応を見るのも楽しそうだったけれど、ひとまず何か掛けるものを、とソファーからブランケットを持ってきた。

起こさないように起こさないように。
ぱさ。
よし、と満足気に微笑んだ綱海はそのまま戻ろうと数歩進んだところで思い留まった。
それからしばし悩んだ後、またくるりと久遠へ向かって歩き出す。

未だ眠っている久遠の傍らにそっと立つと、その頬にひとつ、ふわりと触れるだけのキスを落とす。

「へへ、…んーと、監督の疲れが早くとれますよーに。……あと、大好き、監督。起きたらかまって、な」

秘密のおまじないを呟くように短く囁くと、先程より幾分か早歩きでその場をあとにする。
今更ながら、自分の思い切った行動に恥ずかしさが込み上げてきたようだった。

(…うわ、やったあとであれだけど、これめっちゃ恥ずかしい!)

果たして効果はあるのかは不迷だが火照る頬をぱたぱたと扇ぎながら、今度こそドアノブに手をかけた。

「おやすみ、かんとく」

柔らかい笑みと穏やかな声色を残して、静かにドアを閉めた。



静かに遠ざかっていく綱海の足音だけが聞こえてくる、閉じられた扉の奥。
もぞりとブランケットの塊が動いた。

「あいつは…」

そうして体を起こした久遠の頬も赤くなっていたのを、綱海は知らない。




只今愛の充電中










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久綱好きだッアーーーー!!!!(ごろんごろん)

大人っプル(大人なカップル)な二人いいじゃない
この話はまだ付き合い始めっぽい感じかな。久遠監督が絡むCPはアダルティな雰囲気のイメージ。
馬鹿みたいにテンション高い監督×ド天然綱海も大っ好きですが(笑)

綱海にーには子供っぽいところもあるけれど、その実誰よりも達観した考えを持っていると思います。子供の柔軟さと大人の現実感を兼ね備えた子。あれ思春期ってそういうもんじゃないっけ
いくつになっても少年の心を忘れない大人になってくれそうです。にーにはいい男だよ!

久遠監督はテリトリー意識が強そう。自分のエリアに土足で入り込まれるのが大嫌いなのに綱海は遠慮なく入り込んできて、しかもど真ん中に居座っちゃうと思うんです。普段だったら久遠さんブチギレな筈が、綱海にはその気が起きない。
そこであれ?ってなってどんどん綱海が気になっていっちゃう久遠さんとかね。


綱海は人との距離感を取るのがうまいので、一旦テリトリーに入っても引き際や押し時をわかっていて、相手に不快な思いをさせないでその人の深いところまで入ってっちゃうイメージがあります。
妄想甚だしい綱海像でスライディング土下座なわけですが、基本的に綱海は全部本能で行動してると思います。だから駆け引きも天然の勘。まさに天然小悪魔ちゃん。

語り長くてすみません
久綱好きやねん










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