グラン(+バーン)×ガゼル


消毒液と薬品と、アルコールと。それらの匂いが混じりあった空気は、この部屋ならではである。


ガゼルが捻挫した。
本人は放っておけば治るといっていたが、癖になるからダメ!と半ば無理矢理ここ、医務室に引きずってきたのだ。
初めは捻挫如きでだのこのお節介の世話焼きめだのとやいのやいの言っていたが、俺が適当に流しながら手当てをしていくうちに観念したのか、気が付けば黙ってされるがままになっていた。ほっと息を吐く。いつ自慢の足技がぶっ飛んでくるか内心ヒヤヒヤしていたのは秘密だ。

包帯を巻く手はそのままに、すっかり大人しくなったガゼルにちらりと視線だけ向けて様子を伺う。
じっと俺の手元を見つめる深いコバルトブルーの瞳にはまつげの影が落ちていて、意外と長いそれに気付く。キツい印象を与える少しツリ目がちな眼は伏せられていて、いつもと違ってしおらしい雰囲気が漂っている。
凍てつく闇なんて言ってる冷静で女王様なガゼルも好きだけれど、従順そうなガゼルも、これはこれでいいかもしれない。

(…あ、なんか、)

「キスしたいかも」

「は?なに、」

ちゅ、

良くも悪くも思ったら即行動な俺はガゼルの台詞を遮り、触れるだけの軽いキスをした。って言っても外国では挨拶代わりによく使われる、ごくごく一般的な頬にするキス。

でも、まさかこんなことをされるなんて思ってもいなかっただろうガゼルは現状に理解が追い付かないようで、目をまぁるくしてきょとんとしている(当然といえば当然の反応だよね)
そう言えば、とふと思う。
長年の付き合いの俺たちだけど、ガゼルのこんな表情は見たことがなかった。なんだか新鮮で、無性に嬉しい。

「ガゼルって頬っぺた柔らかいんだね」

にっこり微笑んでみせるとやっと物事が繋がったのかわなわなと震え、面白いほどの勢いでみるみる耳まで赤く染まっていった。

「き、きさ、貴様…!!」

「えへ。あんまり可愛かったから、つい」

「こ…の、変態!凍てつく闇にのまれて消え去るがいい!!!!ノーザンインパクトォォォオォオォォ!!!」

「え、ちょま、っぎゃあああああああ!!」













「すいませーん、絆創膏下さ…ぅおっ」

「退け効果音!!」

顔を真っ赤にしてドスドスと足音も荒く去るガゼル(に体当たりされて)と入れ代わりに、効果音…つまりバーンがやってきた。さっきのガゼルの態度と散らかった包帯と腹を押さえてうずくまる俺を見て、大体何があったのか察したのだろう。
一瞬、うわぁコイツやらかしたよ、とでも言いたげな微妙な表情になったのは見逃さないぞ。

「ったく、今度は何したんだよ」

「いや、ほっぺにキスしただけなんだけど…」

「頬に?はっ、ジェネシスのキャプテン様ともあろう者が、随分と奥手なもんだな」

「慎重だと言ってもらいたいね」

「…カッコつけてるつもりかもしんねーけど、腹抱えて言われてもダセェだけだぞ…」

「…それはいいの。結果的にこれでガゼルも少しは俺を意識せざるを得ないだろうし」

「ふーん?ま、お前らしいけど。でも、いつまでその余裕が持つかだな」

軽口の応酬に見え隠れするどこか含みのある言い方に、ぴくりと眉が動く。それに気をよくしたのか、にやりと人の悪い不適な笑みを浮かべたバーンが、寄り掛かっていた壁から離れてゆっくりと歩み寄ってきた。



そして、俺の耳元で空気が震える。




"ぐずぐずしてっと俺が貰うぜ?"
(君、僕、彼のトライアングルの誕生日)










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