バーン×ガゼル 明け方独特の仄暗い部屋ではカーテンの切れ間から差し込む微かな光すら眩しくて、未だ夢と現の狭間でたゆたう意識を浮上させるには充分であった。 まだ、起きるには幾分早い。 寝返りを打とうと布団を引っ張ったところで、何の抵抗もなく手繰り寄せられたそれに違和感を覚え、そこでふと隣にいたはずの彼がいないことに気付く。 (…相変わらず寝起きのいい奴め) 奴の無駄に高い体温で暖められた布団は私一人では物足りないようで、冴えていく意識とは反対にみるみるうちに冷たくなってゆく。背中にできた、ちょうど人一人分のスペースが何故か寂しい。それを紛らすように膝を抱える形で丸くなるが、それでもやはりぽっかり空いた空間は満たされなくて、布団も冷えていくばかりだった。 静かな部屋、朝の日差し、大きな冷たいベッドに独りきり。 まるで馬鹿げているとは思うけれど、世界に独り取り残されたとしたら、こんな感じなんだろうか。自分以外の温度を一切感じることのない世界。暑いね寒いね、と誰とも温もりを共有することのできない世界。 はて、いつから私は温もりを求めるようになったのだろうか。たった一人の相手にこんなにもどうしようもなく気持ちを揺さ振られるなんて、凍てつく闇が聞いて呆れる。 「……… 、」 寝起きの擦れた声は、難なく静寂に飲まれた。 枕に顔を埋めると、嗅ぎ慣れた彼の匂いが鼻孔をくすぐる。この匂いには鎮静作用でもあるのか、酷く心地よくて安心する。そのまま枕にぐりぐりしていると、パタパタと誰かがこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。反射的に顔を上げ、ようく耳を澄ます。 しかしこんなことをしなくとも、私は知っている。この足音が誰のものなのか。そしてその誰かの手には2つのマグカップが握られていることも、開口一番に彼が言うであろう台詞も、だ。 いよいよ、ドアの前で音が止まった。 背中の熱が冷えるころ (まるで見計らったかのようなタイミングで、アイツは戻ってくる) 戻る |