メトロン×ゼル
あーあ、ついてねぇ。
朝の天気予報では今日は午後から雨が降るとか言ってたから、傘なんて余計な荷物を持つのが面倒くさかった俺はさっさと偵察を済ませて帰ろうとしていた。その矢先のこと。
この学校に着いた時までは晴れていたはずの空は、鉛色の不味そうな綿菓子にすっかり覆われていた。そしてその綿菓子からは途絶えることなく、ザァザァとざらめがこぼれ落ちている。地面を見るとまだ乾いてる部分もあったから、本当についさっき降り始めたばかりなのだろう。甘くもなく冷たいだけのざらめは、次々と地面を黒く塗り替えていく。
こんな日に限ってエイリア石は置いてきてしまった。傘を買うのも面倒くせぇ、これくらいなら走っていけるだろ、濡れて帰るか雨宿りして様子を見るか…と悩んでいると、ふいに声を掛けられた。
「…ゼルさん?」
げ。
非常に聞き覚えのある声に振り返れば、よーく見知った紫の髪の男が立っていた。
そういや、こいつも同じ方向の学校を偵察に行っていたんだったか。あぁ面倒な時に面倒な奴に会った。
俺がここにいるのがそんなに不思議なのか、メトロンはきょとんとこちらを見つめている。
「用は済んだのに、帰らないんですか?」
「お前、この状況みて気付けよ」
傘持ってねぇだろうが。
「あ、」
「そーいうことだから、お前は先帰れ。俺はもう少しここにいる」
「それなら俺傘持ってきてますから、一緒に帰りましょうよ!」
え、マジで。
予想外の返しに、ずいっと差し出された傘と満面の笑みのメトロンを交互に見比べる。
わかっている、ここで俺が頷けば全てが丸く納まるのだ。傘も買わなくていい、濡れなくていい、走らなくていい。しかし唯一で最大の問題は、相手がメトロンだということだ。コイツに借りを作るなんて真っ平ごめんだ。しかしそう考えている間にも雨足は強くなってきていて、迷っている暇はなさそうで。メトロンの申し出を受け入れるしかなかった。なんか癪だけど。
やったー!わーい、ゼルさんと相合傘!とほざくコイツに蹴の一発でもくれてやろうかと思ったが、仮にも傘に入れてもらう身なのでそこは我慢して、心優しい俺は変わりに頬をつねるだけに抑えてやった。
「いひゃいれすえるさん〜」
「何言ってるかわかんねーよ」
「でも痛いってことは、これ、夢じゃないんですよね」
へらへらとしまりのない顔で話し掛けてくるメトロンにあーとかそーだなーとか適当に相づちを打って、傘に入れてもらう。
大きめのそれは男女のカップルなら余裕で入れるだろうけど、残念ながらここにいるのはなかなかにガタイのいい男二人だ。濡れないようにするとなると、必然的に寄り添うっつーより密着する形になるわけで。狭い傘の下、お互いの肩が触れ合うのは当然だった。
「ど、どうしましょうゼルさん、俺、今すごく幸せです…!」
「そうか、それじゃあせいぜい俺が雨に濡れないようにしっかり傘差しとけよ」
「はいっ!」
Under one Umbrella
(相合傘で、)
「あと少しでも俺に触ったら顔面にガニメデプロトンな」
「えぇー!!」