※イプシロン幼稚園パロ

デザームせんせいとガイアブレイク組









天高く馬肥ゆる秋。
今日も今日とて、エイリア幼稚園は賑やかだ。私は縁あってその幼稚園のイプシロン組の担任をしている。個性豊かな子供たちに囲まれ、忙しくも充実した毎日を送っていた。

子供は、時として我々大人より鋭く賢い。子供特有の視点から見た物事は摩訶不思議であったり矛盾だらけだったりもするが、たまにはっと気付かされたりすることも多く、実に面白い。
日々発見や驚きの連続で、非常にやりがいのある仕事だと思う。

そして今日も午前の予定を終え、これから待ちに待ったお弁当の時間が始まる―――――はずだった。

「デザームせんせー!ゼルちゃんが泣いてるよー!」

マキュアの声に驚いて見ると、当のゼルはお弁当をじっと見つめたまま俯いていた。
ゼルは私が担当しているイプシロン組の中でも、飛び抜けて大人びている子だった。ファドラとクリプトが遊具の取り合いでケンカになった時に真っ先に仲裁に向かっていったのも、お絵描きの時間に新しいクレヨンじゃないと嫌!とマキュアが駄々をこねた時に「今日みたいな大きな紙には太いクレヨンの方が描きやすい」と諭していたのも覚えている。
普段から我がイプシロン組の中心的存在で、私の知る限り、滅多にワガママを言ったことはないし、泣いたこともほぼないだろう。
そんなゼルが、瞳いっぱいに涙を浮かべ、きゅっと唇を堅く結んでいるのである。


「…ぅ、」

「う〜ん……あ、」
「そっか!」

仲良しのマキュアとメトロンは何か思い当たる節があったらしい。元気出して〜よしよし、泣かないで、と二人でゼルの頭を撫で始めた。相変わらずゼルは俯いている。
しかし二人は気付いても、私には皆目検討もつかない。あのゼルが泣くなんて、よっぽどのことであろうに。特に問題も起きようのないこのお昼の時間に、一体何があったというのか。
どうするべきか困惑していると、マキュアとメトロンがあのね、と話し始めてくれた。


「だってね、せんせい、」




生徒Zの涙
(「「おべんとうに、リンゴのうさぎがはいってないんだもん!」」)


聞けば、ゼルは毎日リンゴのウサギを楽しみにしていたのだが、今回はたまたまウサギになっていないままお弁当に入っていたらしい。
…なるほど、いくら年の割に落ち着いているとはいえ、彼だってまだ幼稚園児なのだ。思いがけないところで子供らしさを感じ、些か不謹慎ではあるが心がじんわりとした。
そしてしょんぼりとうなだれるこの子の背中をぽんぽんと叩いてやる。

「ゼル」

「…せんせぇ」

「今日の先生のお弁当はリンゴのうさぎだぞ。交換しよう」

「!!」

「わぁ、よかったね!」

「ゼルちゃん、うさぎさん大好きだもんねー!」

「っ、デザームせんせい、ありがとう!」

「よし。それじゃ皆、手を合わせて、せーの、」

「「「いただきまーす!」」」


パンパンと手を叩くと、そわそわしていた皆から元気な返事が返ってくる。

おにぎり、ハンバーグ、スパゲティ、オムライス、玉子焼き。
色とりどりのおかずと母親の愛情がたっぷり詰まったお弁当を美味しそうにほおばる子供たちを眺めて、これからはリンゴのウサギ必須だな、と一人ごちた。


エイリア幼稚園・イプシロン組は、やはり今日も平和だ。









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