砂木沼×瀬方


地球には重力、即ち地上に存在するあらゆる物体の質量に比例して受ける力と、万有引力、即ち質量を持つ物質・エネルギーなどが互いに引き合う力がある。
それは勿論、俺だって例外ではないのだ。

「お、重てぇ…!」

重力に逆らうことを知らない、ずっしりと手に食い込む買い物袋を両手いっぱいにぶらさげて、俺は瞳子監督が貸し切ったというネオジャパンの合宿所へ向かって歩いていた。
野菜、缶詰め、牛乳、プロテイン、果物、菓子類、調味料その他諸々。それに誰が頼んだかわかんねぇけど、酒も。
育ち盛りの男どもの食欲は半端なく、買い置き用にと思って置いておいたものも、いつの間にか誰かの胃袋に収まってたりする。昨日も買い物に行ったばかりだというのに。っていうかそもそも何で俺が買い出し係になってんだ。おかげで八百屋のおばちゃんと仲良くなって、色々おまけしてくれるようになったのは嬉しいけど。
でもさすがの俺も、毎日の鬼のような練習後の買物は正直しんどい。全くどこの主夫だ。

そのままのろのろと歩き続け、家路まで大体半分を過ぎた頃だろうか。
そろそろ腕も疲れてきたな、と辺りを見回すと、ちょうど近くに小さな公園を発見した。…よし、進路変更。せっかく見つけたんだから寄らない手はないだろ。


「っはー、重い!」

ベンチに荷物を置いた瞬間、ゴスッとおよそ買い物袋らしからぬ音がしたが、気にしない。気にしたら負けだ。

しかしエイリア石があった頃はこんなもん一瞬で運んでいたから、まさかここまで重い物だとは思わなかった。あの石、使いようによっては物凄く便利だったんじゃないだろうか。
ただ、またあの生活に戻りたいかと問われれば、答えは即答でNOだけど。

サッカーを地球侵略の道具にして宇宙人というキャラまで作って。「強さこそ全て、弱者は排除」という信念を掲げ、あのお方に認めてもらいマスターランクに上がろうと、文字通り死に物狂いで練習をしていたあの日々。それは辛く苦しいものだったが、そのおかげか、チームメイトとの絆は深まっていった(以前の俺なら絶対こんな風には思わなかった。人間、環境が変われば考え方も変わるようだ)

初めはいけ好かない奴という印象だったメトロンはやたらちょっかいかけてくるようになったし、見た目だけは可愛いマキュアはキャンキャンうっせぇワガママばかりだし、落ち着いた雰囲気を纏っていると思っていたクリプトは偵察に行くたび新作コスメを買って帰らねぇとキレやがるし。モールにケイソン、スオームにファドラ。

…うん、本当に濃いメンツだった。湯水のように湧いて出るかつてのチームメイトとの思い出に、一人くつくつと笑いを噛み殺す。
そんな皆も、今は俺と同じように、本当の名前と新しい居場所で暮らしているはずだ。
エイリア石に支配された生活は真っ平ごめんだが、でも、いつかまたアイツらには会いたいと思う。

そうぼんやり過去にひたっていると、急に目の前に影が落ちた。
不思議に思って顔を上げて見たその人に、俺は口を開けたまま固まった。

「さ、さぎ…!!」

砂木沼さん。

言おうとした言葉は、音になって伝わることはなかった。金魚みたいに口をぱくぱくさせる。開いた口が塞がらないとはまさにこんなことを言うんだろう。
砂木沼さんは俺が自分を確認したと見るや否や、ひょいひょいと荷物を持って、行くぞ、と歩き出してしまった。呆気にとられて動けなかった俺は、彼が公園の入り口で振り返ったのを見て慌てて追い掛けた。
歩幅が大きい彼の一歩後ろを歩くのは昔からそうで、もはや癖だ。

「あの、どうしていらっしゃったんですか?」

「お前の帰りが遅かったから気になっただけだ…しかしこれは重たいな、お前はいつもこんなものを持って歩いているのか」

「あ、袋!俺が持ちますから!」

いくら現在はただのチームメイトとは言え、今もキャプテンを務める砂木沼さんにあのクソ重てぇ荷物を持たせる訳にはいかない。

「いや、いい」

「ですが…」

「瀬方、」

尚も食い下がる俺にくるりと振り返って、砂木沼さんは最高の殺し文句を呟いた。




お前はただ、後ろを歩いていればいい
(…そんな顔して言われたら、従うしかないじゃないですか)


「それに、たまには私にも恋人らしいことをさせてくれ」

「…あ、ありがとうございます、」

「瀬方、赤いぞ」

「さ、砂木沼さんこそ!」










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「おい、あれ」「はいどうぞ」みたいな熟年夫婦のようで、手を繋いだりするのもドキドキな甘酸っぱい初恋のような砂瀬が理想です
砂瀬は一組で二度おいしいですウマー

このあと合宿所で改や伊豆野に冷やかされるといいと思うよ

ネオジャパンの前に書いてたもので、おひさま園はなくなったとばかり思っていたのでみんなバラバラに引き取られた設定で書いてしまった。
きっとみんなおひさま園で仲良く暮らしてるはず!




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