デザーム×ゼル←メトロン


俺は彼が好きだった。

しかし彼は、また違う人が好きだった。そしてその相手も彼のことを気に掛けていた。誰にも何も言わない二人だったけれど、お互いを思い合っていたんだ。

それは傍から見ても明らかで、彼らを取り巻く雰囲気は、ただの上官と部下のそれではなかった。
皆は「お似合いだね」「素敵ね」などと持て囃していて、俺自身もその場ではうんうん頷いていた。しかし頭で理解していても、結局のところ、それは第三者目線から見た景色である。実際に当人同士の決定的瞬間を目撃したわけでもないのだから、まだ、もしかしたら俺にもチャンスがあるんじゃないか、って思ってたんだ。

でも、今日、ついに見てしまった。油断してたんだ。物事に真面目な彼が、何も告げずに練習を抜け出すなんて有り得なかったのに。
たまたま忘れ物を取りに戻ったら、皆が出払ったはずのロッカールームのドアがほんの少しだけ開いていた。誰か閉め忘れたのかな、なんて軽い気持ちで覗いて、固まった。あんな場面を見てしまうなんて、微塵も思わなかった。

あの御方のあんなに優しくて愛おしそうな顔は見たことがないし、彼のあんなに幸せそうに笑う顔も見たことがない。
普段俺や周りに見せているような挑発的な笑みではなくて、あれは、安心しきった、好きな人のためだけの笑顔だった。

(見るな、見ちゃいけない、見たら、)

見つめ合って、何事か囁やかれて、耳まで赤くしながら俯く彼。

(ダメだ、早く、早く、早く!)

頭の中でガンガンと警鐘が鳴り響く。
嗚呼、今すぐここから逃げ出したいのに!

あの御方が彼を抱き寄せようとするのを視界の端で捉え、俺は、




階段を駆け下りた
(勝ち目なんてないこと、わかりきっていたはずなのに)









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