美少年をプロデュースしたくて! | ナノ
 お兄ちゃん

私はアイドルとしての日和を知らなかった。
ずっと日和は私の従兄妹で、そばにいてくれる人で、身内の枠を出ない存在のままだった。

そんな彼が遠いと思う日がくるなんて、知りたくはなかった。

ステージに立つ日和はきらきら輝いている。
美しいと思う。
光を浴びる姿も、しなやかなダンスも、聞き慣れていたはずの声も。
大好きなはずなのに、恐ろしく思うのだ。
寂しく感じているのだろうか。
他のみんなのステージとは、違った感覚だ。

「…… 朝比奈が静かで先生すら様子を見てる」

「何かの前触れか……怖い……帰りたい」

机にノートを広げ、思いつく理由を書いては見ても全て違う気がした。

「困り事かのう?小さな嬢ちゃん」

ノートに影が差し、見上げてみると赤い目と視線が繋がった。
夕焼けの光が赤色をより強くしている。

「り、凛月先輩のお兄様……!」

周囲を見渡すと他に誰もいない。
一日の記憶が蘇る。
ああ、そうだ。もう放課後だ。

「今日は珍しく我輩の可愛い弟の凛月を追いかけぬから、凛月もおぬしの心配しておったぞ」

「私が信仰する世界最高レベルの美少年凛月先輩が心配を……?」

ボイスレコーダーに録音をしたい台詞No. 1が決まった瞬間であった。

「凛月を称賛する元気はあるようじゃな」

「私が凛月先輩の存在を讃えない瞬間なんてないです」

確認をするように頷いた凛月先輩のお兄様に、私は頷き返した。

「おぬしのそんなところは我輩、欠点であり美点と思っておるよ」

「ありがとうございます。ところで何のお話でしたっけ……凛月先輩を讃える話……?」

「いや……?ああ、嬢ちゃん何かあったかのう?という話じゃったな」

「あっ」

一生本題に入れないと思った、という声はきっと幻聴だ。

「ふむ……」

日和についてを話すと、凛月先輩のお兄様は腕を組み、鋭い目を私に向けた。

「今のおぬしにプロデューサーの資格はないようじゃな」

「……!」

「おぬしの審美眼に狂いはない。じゃが、気持ちが幼すぎる。プライベートと学院では切り替えが必要じゃ」

反論なんて出来なかった。

「おぬしの心配をして、今日一日、身に入らぬアイドルが何人いた?今日一日が、アイドルの成長にどれだけ貴重なものか……プロデューサーならわかるじゃろう?」

「は、い……」

クラスのみんなの姿を思い出す。
話に聞いた、凛月先輩も。
あってはならない損害だ。

「じゃが、おぬしの悩みは一人の人間としての成長に繋がるもの。我輩の思う未来はその先にあるようじゃから、これを踏まえた上で、しっかり悩み答えを出しておくれ」

優しげになった声にそっと顔を上げる。
凛月先輩のお兄様は、私の悩みの答えがもうわかっているような、そんな雰囲気がした。
それに答えるべく口を開いたその時、カタリと教室の扉が揺れた。

「お節介。後輩いじめ。引っ込め老害」

「り、凛月!?」

「凛月先輩!?」

突如夕暮れの教室に響いたその声に光の速さで二人同時に扉に振り向いた。

「凛月先輩、今日はご心配をおかけしました……!」

「心配なんてしてないけど」

吐き捨てる勢いで言われた台詞。

「あれ……」

凛月先輩のお兄様の方に振り返ると思い切り顔をそらされた。

「凛月先輩のお兄様」

凛月先輩のくだりを詳しく聞かねば、と一歩を踏み出そうとして凛月先輩に阻止をされる。

「誰それ知らない」

「凛月!お兄ちゃんじゃよ!」

冷たい声に返すそれは悲鳴に近い主張であった。
そんな姿は先程とは全く違う人のようで、しかし確かに凛月先輩のお兄様本人だ。

「カナデ、暇なら炭酸買ってきて」

少し怒り気味の凛月先輩は大変貴重だけれど、お使いを優先しなくては。
でも、その前に。

「了解です、凛月先輩!……では、この度はごめんなさい!と、ありがとうございました!零先輩!」

「……は?」





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