◎ びしょぷろpの誕生日
夜空の星に手を伸ばす。
外と暖かな部屋を隔てる窓は、そっと指先の温度を吸い込む。
来るだろうか、来ないだろうか。
約束なんてしていないけれど。
小さな頃からの日常の一部。私の誕生日には、必ず忙しい時にも駆け付けてくれていた。
兄と呼んでいた頃の話。
妹のように振る舞っていた日々に別れを告げてから迎える、初めての誕生日。
兄のように接していた彼へ反抗をした一年。
来るだろうか、来るだろうか。
この時期は忙しいから、妹じゃないなら来ないかもしれない。
吐いた溜息は窓を曇らせ見えなくさせた。
窓際から離れた頃、ドアをノックした音がした。
「カナデ!誕生日おめでとう。今年もぼくに祝われる幸せを噛み締めて、笑顔でぼくを出迎えるくらいしてほしかったね!」
「日和…!?なん、なんでいるの?」
窓の曇りすら晴れさせるような笑顔で現れた彼は、こちらに足を進めつつ、不満を口にしながら質量を感じる箱を私に手渡した。
「毎年カナデのお誕生日をお祝いしに来ているのに、なんでぼくが来ないと思ったのか不思議に思うね!もしかして、ぼくが来たらいけない理由でもあった?」
じとりとした視線に、先程まで考えていたことを思い出して目を逸らした。
「……!?」
「何?」
まるで雷に打たれたような反応に、私は首を傾げかけた。かけた、と途中で止まったのは、日和が私の肩を掴んだからだ。
「だからぼくは嫌だったんだね、カナデが夢ノ咲に行くのは!一体どこの美少年がぼくとカナデの間に割り込んできたっていうの!?」
必死さと僅かな怒りを感じた。驚きながらも私の耳は聞き捨てならない言葉を逃しはしなかった。
「一体なんの話をしてるの!?私と美少年の間に日和はそもそも入れないのに!」
「ぼくはそんなの認めないね、許さないよ!」
許さない。許さないのはこちらのほうだ!
「日和と美少年は全くの別枠だよ!私から美少年を取り上げられると思うな……!」
私から美しいものを奪うようなことは、たとえ相手が日和であっても、あってはならないのだ。
「ぼくと美少年のどっちがカナデは大事なの?そもそも、ぼくだって美少年だね!」
「いや、日和はそういう枠じゃない……」
燃え盛っていた炎は小さくなっていった。
彼は何を言っているのだろう。
「急に真顔にならないでほしいね……なんだか傷付くからね。じゃあぼくはなんだっていうの?なんで来ないと思ったの?」
その言葉にやはり私は目を彷徨わせる。
貰った箱がやけに重く感じた。
言わなければこの話を繰り返してしまう。
「日和は……日和はもうお兄ちゃんじゃなくて、だからもう誕生日に来てくれる理由がないって思って、だから、ええっと」
言葉に迷うのだ。私のなかにはまだ日和の言葉に対する答えがきっとない。
私にとってお兄ちゃんじゃない日和は何だろう。
俯く私に日和は息を吐いた。
「つまり、ぼくとカナデの邪魔をする美少年はいないんだね?」
「美少年は邪魔じゃない」
日和のその確認の意味がわからない。
そんなもやもやが残ったけれど、日和が手を引いてくれたから、一旦それは置いておくことにした。
手を引いてくれた人は、今年も祝いに来てくれた。
来年もその次もそうならいいのに、と思いながら私たちは曇った窓に指を滑らせ、星を描いた。
次の誕生日には私が手を引いている側になれますように。
描いた星を流れ星にして祈った。
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