◎ 従兄妹の話 日和視点
ぼくと彼女の話。
真っ白な部屋の主である少女ーーカナデは、いつも彼女が望む前に沢山の物が用意されていた。
床に散らばった画用紙、様々な色のクレヨン。ふわふわのぬいぐるみ。可愛い洋服。
そんな環境に囲まれているせいか。カナデは何も欲しがることなく、ただぼんやりと退屈そうに生きていた。
だらりと手足を投げ出してベッドと一体化しているカナデに声をかける。驚いた様子の彼女はぼくが来ることを忘れていたらしい。
「うん? これは宿題かな」
「あっ、忘れてた……」
床に落ちていた画用紙に気づいた。
手に取ればそれはまだ何も描かれていない。
「何を描くつもりなの? 」
カナデにそう問いかけると、眉を下げ唇を噛んでいる。
「好きなものを描きなさい、って。好きなものとかないし、何にも描けなくて……どうしよう」
「ぼくは?」
「えっ、いやだよ」
即答。迷いのない返事に、少しムッとする。
「まったく! 可愛げのない妹分だ」
「なくていいもん」
ぷくりと頬を膨らませれば、同じ事をやり返す。
同じような頬が少しだけ赤くなっているけど、気付かないふりをしてあげる。
話題をずらして、好きなことや気になっていることをたずねれば、やっぱり彼女は全てに興味がないようで。……それなら、そうだ。これがいい。
「ぼくとカナデ、二人で新しい事を探しに行こう。そうしたらきっと好きになれるものに出会えるよ! 良い日和! 」
「え、今からっ!? 待って、早いよ! 」
そうして二人、手を繋いで外に駆け出した。
prev|
next