美少年をプロデュースしたくて! | ナノ
 夏の熱

きっと誰でも良かった。
最初に見つけられたのが、俺だった。
それだけ。

少しずつ、日に日に熱が上がって行くコンクリートの道の上を歩く。
それはまるで誰かの気持ちのようで、違う。

真っ赤な信号の色に立ち止まると、手に持っていた冷たい炭酸のジュースの水滴が落ちる。
指から伝う感触に、視線を落とす。
地面に吸い込まれていくそれは染みになって、でもすぐに熱で何もなかったかのように消えるのだろう。

信号機の鳴らす音に、向こう側に目を向ける。
淡い色のようで、鮮やかな少女が笑顔で立っていた。

「凛月先輩っ!まさかこんな日にこんな時間で会えるとは……!そして私服っ、私服ですか!?あわわ…最高では…?」

走って来た少女、カナデはご機嫌で、喋ったままに俺と同じ方向へ歩みを進める。

「なんでついてくるの」

「え、えっと!たった今こちら側に用が出来まして」

「へぇ……」

相変わらずにきらきらした瞳で、俺を見る。
最初から気付いていた。その瞳にはこの夏のような熱はない。
ただ輝くそれは例えば美術館。そこに飾られた作品を見るようなそれで。涼しげな場所から向けられるものだ。
別に構わないと思っていた。涼しいものなら眠っていても害はない。
そう思っていたのに。

「……凛月先輩? 」

隣を歩くカナデを見る。
不思議そうに名前を呼ぶ姿に、少し苛ついた。
ーー俺の気も知らないで。

誰よりも俺を見ているようで、そうじゃないこの人間は、一体いつ俺の気持ちに気がつくのだろうか。

「ここ、コンクリートで暑いですからどこか涼しい場所で休んだ方がいいのでは…?」

変なことを考えていたから、ぼんやりしていたみたいでカナデが心配そうに提案してきた。

「無理。行きたいならカナデ一人で行けば〜?」

「って言いながら手!つかまれ……!?」

手を掴んでもいつもと変わらない瞳。

「と、思ったけどムカつくからやっぱり道連れにしてあげる」

「えっ!?」

そう、だから。
俺のこと好きになってよ。






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