◎ 夏の熱
きっと誰でも良かった。
最初に見つけられたのが、俺だった。
それだけ。
少しずつ、日に日に熱が上がって行くコンクリートの道の上を歩く。
それはまるで誰かの気持ちのようで、違う。
真っ赤な信号の色に立ち止まると、手に持っていた冷たい炭酸のジュースの水滴が落ちる。
指から伝う感触に、視線を落とす。
地面に吸い込まれていくそれは染みになって、でもすぐに熱で何もなかったかのように消えるのだろう。
信号機の鳴らす音に、向こう側に目を向ける。
淡い色のようで、鮮やかな少女が笑顔で立っていた。
「凛月先輩っ!まさかこんな日にこんな時間で会えるとは……!そして私服っ、私服ですか!?あわわ…最高では…?」
走って来た少女、カナデはご機嫌で、喋ったままに俺と同じ方向へ歩みを進める。
「なんでついてくるの」
「え、えっと!たった今こちら側に用が出来まして」
「へぇ……」
相変わらずにきらきらした瞳で、俺を見る。
最初から気付いていた。その瞳にはこの夏のような熱はない。
ただ輝くそれは例えば美術館。そこに飾られた作品を見るようなそれで。涼しげな場所から向けられるものだ。
別に構わないと思っていた。涼しいものなら眠っていても害はない。
そう思っていたのに。
「……凛月先輩? 」
隣を歩くカナデを見る。
不思議そうに名前を呼ぶ姿に、少し苛ついた。
ーー俺の気も知らないで。
誰よりも俺を見ているようで、そうじゃないこの人間は、一体いつ俺の気持ちに気がつくのだろうか。
「ここ、コンクリートで暑いですからどこか涼しい場所で休んだ方がいいのでは…?」
変なことを考えていたから、ぼんやりしていたみたいでカナデが心配そうに提案してきた。
「無理。行きたいならカナデ一人で行けば〜?」
「って言いながら手!つかまれ……!?」
手を掴んでもいつもと変わらない瞳。
「と、思ったけどムカつくからやっぱり道連れにしてあげる」
「えっ!?」
そう、だから。
俺のこと好きになってよ。
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