◎ 従兄妹の思い出
白い天井。白い壁。私が今座っているベッドに、降り注ぐような白いレースのカーテン。
真っ白な世界。
つまらない世界。
目の先にある画用紙も、真っさらなまま。
描くものすら思いつかない。
きっと、私の心も真っさらだからだ。
何かを強く願うことは難しくて、欲しいものもなくて。
だから描きたいものもない。
どうしよう。これは学校の宿題だから、ちゃんと完成させなくちゃいけないのに。
そう思いながらもベッドに上半身も沈めていく。
困ったなあ。
……………意識もゆっくりと、瞼とともに落ちていく。
◯◯◯◯◯◯
「カナデ……カナデ! 」
「ひより、お兄ちゃん? なんでいるの 」
「今日はぼくが来る日だって忘れていたね? ほら、起きて」
そう急かされて起き上がる。
「うん? これは宿題かな」
「あっ、忘れてた……」
従兄妹の日和お兄ちゃんが床に落ちていた画用紙を拾っていた。
「何を描くつもりなの? 」
「好きなものを描きなさい、って。好きなものとかないし、何にも描けなくて……どうしよう」
寝てしまって時間が無い。
私がいけないんだけど、困ったな。
「ぼくは?」
「えっ、いやだよ」
自分を指差して日和お兄ちゃんは言った。
それは提出するのが恥ずかしい!
「まったく! 可愛げのない妹分だ」
「なくていいもん」
ぷくりと頬を膨らませた姿に同じ事をやり返す。
「悪い日和!! でも、本当に何もないの? 好きな事とか、気になってる事とかは? 」
「ない。全部お父さんもお母さんも、揃えてくれるから。全部同じくらい、だもん」
同じくらい何とも思えなかった、とは言えなかった。
「ふうん」
考え込んだ日和お兄ちゃんは、暫くして閃いた!とパッと顔を輝かせて私の手をとった。
「ぼくとカナデ、二人で新しい事を探しに行こう。そうしたらきっと好きになれるものに出会えるよ! 良い日和! 」
「え、今からっ!? 待って、早いよ! 」
そうして二人、手を繋いで外に駆け出した。
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