(あき視点)
「なぁ、てる姐さんはいるか?!」
「・・・おかえりあき、まあ落ち着いて。ほら、あそこ」
「ありがとうはつ姐」
帰るなり絶対てる姐をしめてやろうと息巻いてふすまを開けるとそこにははつ姐しかおらず拍子抜けした。礼を言って心の中で、驚いていたはつ姐に謝りつつ指を指す方向へと早足で歩く。
「てる姐!!」
「なぁにーうるさーい」
「・・・やってやったぞ、ざまあみろ声だしても3人騙されたぜ」
「そう。お疲れ」
「むかつく・・・」
「何か言った?」
「いいえ」
だらだらとした喋り方で煙管を吸いながら答えられれば苛苛は増すほかない。綺麗な金色の髪は今はぼさぼさに乱れている。気だるそうな雰囲気からきっと一仕事終えたのだろう。これ以上文句を言う気も失せて踵を返しはつ姐の部屋へと戻った。
事の発端は今朝てるが「あきは声が男みたいだからね、絶対ばれるだろう?」といったことから始まった。「だって俺男だもん」「でも女装してるからには完璧に女として振舞うのが決まりだよ?言葉遣いもなってないよね」「うるせー余計なお世話」「ぜんっぜん可愛くない新造!もう少し先輩を敬ったらどう?!どうせばれるのが怖いんでしょ」「はああああ?怖くねーよ、ならやってやるよ!この格好で外で一刻半出歩いて来てやる」「言ったね?じゃあいってらっしゃい」「・・・くそ」そんなけたたましいやりとりをあきの姉女郎のはつは苦笑しながら朝食を食べる。「大丈夫、あきは綺麗だから。行っておいで」はつが微笑んであきは渋々頷いたのだった。
「ばれたのか?」
「いや・・・」
「ほらね、あきは綺麗だから大丈夫だって言ったろ」
ふわりと微笑んではつ姐は頬を両手で包み込んできた。こんな新造がもてて幸せだと言うはつ姐に照れくさくってたじろいでしまう。
「なんで怒ってたんだ?」
「・・・おっさんに襲われかけて」
「大丈夫だったか?!」
目線をはずして言うといつものはつ姐からは想像もできないほどの大声で叫ばれ目を見張る。
「あ、大丈夫・・・助けてもらったし。色々聞かれてしつこかったけど」
「そうか、ならよかった・・・。何を聞かれた?」
「名前とかどこで働いてるとか、名前は答えたけど店の名前は言わなかった」
「・・・そうか。無事でよかった」
険しい表情のまま話を聞いていたけどようやくふと笑うとそこで頬を開放してくれた。
「言えないもんな」
男色だからだとか陰間茶屋だからだとか理由は数え切れないほどあって言葉に詰まる。
窓の外に視線を投げて微笑むはつ姐は怖いくらいに儚げで美しかった。
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