とても残酷な夢を、見た。
◇ ◇ ◇
ああ、眠い。
大きな欠伸が一つ、零れて慌てて口を抑える。
「珍しいな、ベルトルトが欠伸なんて」
後ろから掛けられたら声にギクリと振り返ると、愛しい君がなんともつかない顔で立っていた。
「やあ、ジャンおはよう」
笑顔で返すと、ジャンは「おー、」と小さく答えて、そのまま二人で食堂に向かう。
「お前とこんな時間に会うなんて、…ライナーはまだ部屋か?」
そう聞かれて、俺は頷いた。今朝は、少しだけ早く外の空気を吸いたくなったんだ。
「…夢のせいかな?」
「夢?」
心配して損した、とジャンは吐き捨てるように言った。嗚呼、君は俺の事を心配してくれていたのか。
「―――君の、夢を見たんだ」
「…俺の、夢?」
ジャンの眉間の皺が少しだけ深くなる。
「いや、みんなの夢かな。俺もライナーも、ただの普通の子供で、俺の隣でみんなが笑ってくれてるんだ」
「…幸せな、夢だな」
ジャンの目が少しだけ細まって優しい瞳になる。
「ああ、――とてもいい夢だったよ」
とても幸せで、残酷な夢。
(―――どうせなら悪夢の方が良かったのに)
どんなに切望したところでそんな未来、訪れはしないのに。
「ふっふ、そんなことわかりきってるじゃないか」
自嘲的な言葉が漏れた俺に、ジャンは不思議そうな顔をした。
俺もライナーやアニと同様、彼らに心を許し初めてしまったのか。
(―――俺は、怪物だ。)
ギリリと握り締めた拳は痛いほど爪が食い込んでいる。
「あ、そうだ。夢の中の君も可愛いかったよ」
(もう、会うことはないだろうけど)
「馬鹿野郎。そうゆうこと言うんじゃねえ!」
真っ赤になる君を後ろ目に、俺はゆっくりと歩き出した。