※マルコ死捏造
もしも、―――
◇ ◇ ◇
「――そんな、君たちが人類を滅ぼそうとしている巨人だ、なんて」
カタカタと震える少年を前に、俺たちは呆然と立ち尽くしていた。
怯えを映した少年の瞳にライナーは勿論、アニも傷ついているようだった。
「…ああ、きっと、何か悪い冗談、だよね」
心優しい彼は、ふわりと笑う。きっと、俺たちを信じてくれているのだろう。
仲間が、俺たちが、敵の訳ないだろう、と。
「あ、ああ。そうだ。――冗談言わねぇとやってられないだろう。なあ、アニ」
「あ、ああ。そうだね。全く、しょうがない冗談だよ」
黙ったまま俯いている俺に、彼は近づき、「大丈夫かい?」と覗きこんだ。
黒い瞳と目が合うと、彼はにっこりと微笑む。
優しい、包み込むような笑顔。ジャンだけじゃないみんなが好きな彼の笑い方。
―――きっと、ジャンは君のこんな所に恋したんだろうね。
(―――もしも、俺が)
その時だ。ドシン、と地面が揺れた。視線を上げた先には、8メートル級の巨人が三体。俺たちの元にゆっくり、ゆっくり近付いてきている。
「逃げるぞ」
呆然と立ち尽くしたままの俺たちに怒鳴りつけるように叫ぶ、ライナーの声。
ライナーの声にアニとマルコはぴくりと反応し、屋根にあがる。残るは俺だけだ。
「ベルトルト、さあ。早く」
伸ばされた左手。
でも、俺がその手をつかむことはなかった。
そして、その代わりに響いたのは鈍い肉を裂く音と、謝罪の言葉だった。
「さようなら、マルコ。ごめんね。」
「―――――え、」
ゆっくり倒れる彼を、ライナーもアニも血の気が引いた顔で見つめている
「俺はアニやライナーのように、君を見逃すわけにはいかないんだ」
俺は故郷に帰りたい。一刻も早く。
(そうしたら、このモヤモヤも消えるかな――)
君の事も、忘れられるんだろうか。
「―――『俺』は『君』に生まれたかったよ」
けれど、やっぱり俺は何処までいっても怪物なのだ。
そんな、願い叶うはずもないにね。